感染症予防のために診察内容を変更しています。詳しくは、新型コロナウイルスなどの感染症対策についてをご確認ください。

よしなしごと

続・山陽新聞の記事と堺市の実情

前回のブログに引き続き、山陽新聞の記事に関する堺市のデータを用いた考察をしていきたいと思います。

上述の新聞記事には、まとめとして辻哲夫先生の以下の言葉が書かれています。

24時間365日、自宅への訪問診療から看取りまでをフォローするのが在支診の本来の役割だが、全国的にも機能していないケースが少なくない。市町村や郡市の医師会が中心となり、在宅医を支える仕組みづくりが急務だ」

全くその通りだと思います。
在支診の施設基準には、24時間365日の臨時往診(および訪問看護)への応需体制を整えていることが求められています。
(とは言え、これは何でもコンビニ対応せよということではありません。医学的に必要性があれば往診を行うということで、呼ばれたら全て往診対応するという意味ではありません)
24時間365日体制を維持することは、医療機関にとっては結構大変です。
いつ何時、往診の依頼があっても対応できるようにするには、多くの医師にとっては一人で続けるのは困難だと感じることです。

ところで、「在宅時医学総合管理料(在医総管)」という医療費があります。
これは、定期的に訪問診療を行い、患者さんに継続した医療を計画的に行う場合に算定できるもので、在支診では24時間365日対応を行う代わりに、比較的高額の在医総管が設定されています
一方で、24時間365日対応を行う在支診以外の一般の医療機関でも、定期的な訪問診療により医学的対応を行えば、在支診より少し低い額ですが「在宅時医学総合管理料」が算定できます。

この差額は在支診にとって、ある意味で「24時間365日対応」を行うことに対するコスト分の補填だと言えます
施設基準では、24時間365日対応の体制は、複数医療機関で協力して行っても良いことになっていますから、一人で続けることが困難であれば、複数医療機関での対応をすればよい、しかしそれには人件費を含めてコストがかかる。
そこに対して医療費を優遇している「在支診」というシステムである以上、辻先生の言われる通り、本来の役割を担えるようにする仕組み作りが急務だと言えると思います。
逆の言い方をすれば、もしその体制をとるのが難しいということが分かっているのであれば、在支診ではなく一般の医療機関として在医総管を算定するという道もあります。

前置きが長くなりましたが、ここからデータを元にした考察をしていきたいと思います。

【在宅患者10人あたり年間死亡数】
表題の「在宅患者10人あたり年間死亡数(以下10人あたり死亡数)」とは、

(1年間に死亡した在宅患者数 ÷ 1年間に診療した在宅患者総数) × 10

の式で求められる指標です。
正式に統計などで使われているものではありませんが、ある先生から教えていただき、「診療している在宅患者さんの重症度の一つの指標になるのではないか」、つまり、この数字が高いほど、亡くなる可能性の高い( ≒ 重症度が高い)患者層を診療していると言えるのではないかということです。
(しかしこの指標は、一概にそうと言い切れない部分もあります。例えば当クリニックは小児の割合が高いので、医療依存度が高い患者さんが多い割には亡くなる方がそれほど多いわけではなく、この指標は低くなります。あくまで参考程度に使う方が良いものかもしれません。)

堺市の134の在支診全体では、総在宅患者数9257人、総死亡患者数1012人なので、

1012 ÷ 9257 = 1.09

が平均値となります。

【在宅看取り率】
次に、「在宅看取り率」とは、

1年間に在宅で看取りとなった在宅患者数 ÷ 1年間に死亡した在宅患者数

です。つまり、在支診の訪問診療を受けていた方のうち、最期まで在宅で過ごされた方がどれだけいるかという値で、これは在支診の在宅看取りへの対応力の指標となると言えます。

堺市の134の在支診全体では、総死亡患者数1012人のうち在宅看取りが465人なので、

465 ÷ 1012 = 0.459

が平均値となります。
(ただし厳密には、入院や入所されたりして、在支診からの訪問診療を離脱後に亡くなった方が、死亡患者数として在支診側で把握されていない可能性があります。このため、この式の実際の分母はこれより大きい、つまり在宅看取り率はもう少し低いのではないかと推察されます。)

【在支診の規模と10人あたり死亡数と在宅看取り率】
そして、上記の2つの指標を、在支診の規模ごとに比較してみました。
前回のブログで分けたように、在宅患者数の階層ごとにこれらの指標を出してみると、下の表のようになります。

規模と死亡率、看取り率 (※前回ブログのグラフと医療機関数が異なっておりますが、この表が正しい数値です。お詫びして訂正いたします。)

この表を見て、とても意外なことがありました。
在宅患者数39人以下という、少ない数しか在宅医療に対応していない在支診の方が、40人、あるいは100人以上に対応している在支診よりも、指標上は診療している方の重症度が高い傾向があるのです。
これについての一つの考察は、在宅患者数40人以上の中〜大規模の在支診では、施設入所者の方をまとめて診療しているところが多いからではないかということです。
この場合、比較的軽症な方を多数診療することになりますので、10人あたり死亡数は低くなります。
手元のデータでは、在宅患者数のうち、一般在宅の方と施設の方を分類されていないので、あくまで推測です。
可能であれば、一般在宅と施設の方を分けて検討したいところです。

また、特に、9人以下という一番小規模に分類した在支診でも、10人あたり死亡数は平均を大きく上回っています
「関西型ミックス型」と私が呼んでいるような在支診の先生には、外来に通院されていた患者さんが不安定な状態になっても、引き続き在宅で診療されている方が多いのかもしれません。
しかし、9人以下の在支診はそれ以上の在支診に比べて、在宅看取り率が低い傾向にあります。
これは、日常的に多数の在宅患者さんに訪問診療を行っている在支診に比べ、在宅医療のための時間を普段から十分に確保できないために、看取りを含めた臨時対応が困難だからではないかと推察します。
つまり、多くの在支診が少ない在宅患者さんをそれぞれに診療するという「関西型ミックス型」スタイルは、元々の主治医が継続診療できるというメリットはあるものの、今のままでは効率の面からはあまり良くないと言えるでしょう。

そして、この表から分かるのは、堺市の在宅患者数の70%以上の訪問診療、および65%以上の在宅看取りは、在支診のうち在宅患者数100人以上の28軒(20.9%)によって行われているということです。
やはり、効率的に在宅医療の受け皿を広げていくためには、在宅専門型を含めた規模の大きい在支診の力は無視できず、今後はどのような協力体制を取ることができるかを考えなければならないでしょう。

以上のことと、前回のブログの検討内容から、以下のようなことを考えています。

3)在宅患者数が少ない在支診は、比較的状態が不安定な方の訪問診療を行っているにもかかわらず、在宅看取りを含めた臨時対応力には限界があり、現状のままでは効率的ではない。
→解決策としては、複数の在支診による臨時対応の当番制や、複数医師体制の大規模在支診などによる臨時対応のバックアップを受けることなどが考えられる。

4)在宅患者数の多い在支診は、平均すると指標上は比較的状態が不安定な方が少ないということになるが、在宅看取りの率は高く、実数も多い。
→今後爆発的に増えることが予想される在宅医療ニーズに対応するためには、在宅専門型を含めた規模の大きい在支診による、効率的な応需体制の整備は必要である。

《補足 2016.5.16》
以下の点についてご指摘を受けましたので、補足いたします。
在支診の義務となっている実績報告の書式では、在宅看取りの定義は明確なのに対して、医療機関での死亡の定義は明記されていません。
つまり、在宅患者さんを病院に搬送し、その後どれくらいの間に亡くなった方をカウントするのか、在支診ごとに基準が違うのが現状です。
堺市では、在宅患者数100人以上の在支診28軒のうち3軒で、医療機関での死亡数がゼロと記載されていました。これは、在宅患者さんを病院に搬送した時点で終診扱いとして、その後の転帰まで把握していないか、もしくは亡くなっていたとしてもカウントしていない可能性があります。
本文中にも少し触れたように、在宅看取り率は分母がもう少し大きくなり、10人あたり死亡数はもう少し高い値になりそうです。
今回の検討では、その正確性には疑問符が付くことは否定できないことを付け加えさせていただきます。

※かがやきクリニックでは、現在医師を募集しています。
 →常勤医の働き方はこちら

※【小児在宅医療実践の手引き】のご案内

関連記事

コメント

この記事へのコメントはありません。

かがやきクリニック ロゴ

クリニック概要

かがやきクリニック
院長:南條浩輝
所在地:〒590-0105
堺市南区竹城台4丁1-14
オフィス・キャロー101
TEL:072-320-8501
FAX:072-320-8504
(電話受付:平日9:30~17:00)

アクセスマップ