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よしなしごと

山陽新聞の記事と堺市の実情

先日、5月10日付けの岡山新聞で、以下のような記事が掲載されたとネット上で話題になりました。

【「看取りゼロ」47% 岡山県内の在宅療養支援診療所】

この記事によると、岡山県内の在宅療養支援診療所(在支診)において、2015年6月までの1年間に
・「在宅看取り」を1度もしていないところが半数近くにのぼる
・「緊急往診」を1度もしていないところが約3割を占める
ことから、在宅医療の担い手である在支診が十分に機能していないのではないか、ということです。

この記事の元になっているデータは、厚生局に情報開示請求をすると誰でももらえるものです。
おそらく新聞社の方は元のデータをお持ちなので、もっと詳しく読み取ることができると思うのですが、記事で書かれている内容だけでは、少し実情とずれて受け取られてしまうかもしれないと感じたところがあります。

ところで、私も以前、ある先生から教えていただき、大阪府の2015年6月までのデータを手にしています。
大阪府全体となるととても膨大な数になるので、地元の堺市がどうなのか、少し調べてみたところ、いろいろ興味深いことが分かってきました。
その中には、もしかしたらこの記事だけでは分からない部分に踏み込める内容もあるかもしれないと思いましたので、何回かに分けて当ブログでお示ししたいと思います。

【在支診の数と規模】
まず、堺市全体で、134の在支診が厚生局に2015年の実績報告をしています(在支診には毎年の実績報告義務があるので、おそらくこれが総数であると思われます)。
総診療在宅患者数は9257人、総在宅看取り数は465人、総緊急往診回数は1710回となっており、これには一般在宅患者さんと、いわゆる「施設入居者」にあたる患者さんの両方が含まれています。

1年間に対応した在宅患者数ごとに在支診数をグラフにすると、以下のようになります。
在支診患者数堺市全体
全体の30.0%にあたる40軒では、年間の在宅患者数が10人未満となっています。
年間在宅患者数ゼロというところはありませんでしたので、これらの在支診は限られた範囲での在宅医療にのみ対応するという形をとっているようです。
ここからは推測ですが、例えば自院外来に通われていた方のADLが低下し、通院が困難になった場合にのみ継続して訪問診療を行う、などという形態ではないでしょうか。
以前、ブログ「在宅医療」という言葉で述べたように、ここに入る在支診はおそらく「関西型ミックス型」と呼べるようなところが多いのではないかと思われます。

一方で、年間100人以上の在宅患者を診療している在支診も約20%ありました
在支診はこのように二極化しており、これは堺市だけではなく全国的な傾向のようです。

【在宅看取り数・緊急往診実績と在支診の規模】
次に、在宅看取りをどの程度行っているかを見てみました。
134の在支診のうち、1年間に1人も在宅看取りを行っていないのは57軒(42.5%)、1年間に緊急往診を一度もしていないのは37軒(27.6%)で、今回の記事の岡山県の数字とそれほど大きく変わらない結果となっていました。
ここを掘り下げていくと、少し興味深いことが分かってきます。

まず、年間の在宅患者数と在宅看取りの有無の関連を調べると、以下のようになります。
患者数と看取り経験率

当たり前ですが、診療している在宅患者数が多い在支診ほど、在宅看取り経験のある割合が高いことになります。

次に、年間の在宅患者数の層別に、緊急往診をしている在支診がどれくらいあるのかを調べると、以下のようになります。
患者数と緊急往診経験率ちなみに、この報告における緊急往診の定義は、「日中の緊急往診(通常の診療を止めてまで急いで行った往診)、および夜間・深夜の往診」です。
ですから、緊急往診がゼロということは、夜間・深夜の往診を1年間に1回も行っていないということになります。

これを見ると、上の在宅看取りの表とは少し雰囲気が違います。

まず、40人以上、100人以上などの在宅患者数が多い在支診で、これほど緊急往診をしていないところが存在するのは驚きです。
私の6年間の現場感覚からすると、40人も在宅患者さんがいて1回も緊急往診をしていないというのは、よほど軽症の方ばかりを診療しているのか、最初から夜間・深夜の往診をするつもりがないのか、カウントの間違いか・・という印象です。

一方で、10人未満の在宅患者数が少ない在支診でも、45%が緊急往診の実績があるというのも、ある意味で驚きです。
在宅患者数10人未満の在支診の看取り経験は9軒と、緊急往診実績のある在支診の半分の数でしたが、もしかするとそれ以上に看取りを含めた対応が可能な在支診はあるのかもしれません
これも推測ですが、「関西型ミックス型」在支診には、自院に通っていた方が通院困難になり、訪問診療を開始した場合、それまでの関係性の中で緊急往診の対応をされたり、在宅での看取りを希望されたらできる範囲での対応をされている、ただ母集団が少ないため、毎年コンスタントに在宅看取りがあるわけではない・・といったところもありそうです。
しかし、見方を変えると、数少ない在宅患者さんのために医師が24時間体制をとる必要があり、効率は非常に悪いという側面もありそうです。

今回の検討からは少なくとも、以下のことは言えると思います。

1)在宅患者数がごく少ない在支診の数が多いため、在宅看取り実績ゼロや緊急往診実績ゼロの在支診の「割合」というのは、その地域の在宅医療の担い手が機能しているかいないかを直接表している指標ではないこと。

2)在宅患者数が多い在支診にも、在宅看取り実績ゼロや緊急往診実績ゼロのところがあり、ある意味こちらの方が問題でもあること。

そして、在宅医療推進のためには、私はやはり集約化・効率化が必要であると考えており、今回のデータからもそれははっきりとしました。
この点についてはまた次回書きたいと思います。

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