前回の記事に引き続き、日本未熟児新生児学会の旅日記を書かせていただきます。
私の発表へ、フロアの先生から2点ご質問をいただきました。
両方ともとても幅広いことに関わるご指摘だったのですが、限られた時間内でうまくお答えすることができずに終わってしまいました。
いただいたご質問はともに病院のNICUの先生からで、内容は以下の通りでした。
1)病院との連携で、開業後に難しさを感じている部分はないか。
2)訪問看護で小児を受け入れてくれるところが少なくて困っているが、どうすれば小児の受け入れが進むと考えられるか。
今回は、1)について書かせていただきたいと思います。
これは、難しさというか、在宅医療側と病院側の立ち位置の違いから、意思疎通をしづらい部分があることは確かです。とは言うものの、私自身が4年前には病院で働いていたので、どちらの立ち位置もある程度わかっているつもりではいるのですが・・。
一番感じる大きなずれは、
「何を目的として治療方針を立てるか」
という部分です。
小児在宅医療の対象となる子どもたちは、「治らない病気」とともに生活していることがほとんどです。
在宅医療側は、病気が治らないのであれば、どうすれば「苦痛が少ない」のか、あるいは「生活しやすい」のか、これらを中心にして、サポートについて考えていきます。
そして多くの場合、病院の先生に相談する時の目的は、「治す」ことではなく、「今よりも苦痛が少なくする」ことや「今よりも生活しやすくする」ことなのですが、この点がなかなかうまく伝わらないことがあります。
例えば、経管栄養をしていて、毎日のように何度も嘔吐を繰り返している子どもがいます。
嘔吐する栄養剤の量はたいしたことなく、体重は順調に増えています。
こういう場合に、
「嘔吐は続いていても、栄養状態に問題があるわけではないから大丈夫」
と評価して、嘔吐が大変な問題であるとは考えずに放置していたことが、勤務医時代の私にもよくありました。
しかし、嘔吐が毎日何度もあるのは、日常生活ではとても「苦痛」で、「生活しにくい」状態です。
繰り返す嘔吐は、子ども本人にとっても辛い症状です。
その上、いつ嘔吐するかわからなければ、子どもがたくさん集まる場所に連れて行くことがとてもはばかられます。
また、自動車に乗せるだけでも、車内で嘔吐すれば、その後始末が大変です。
こうして、その子どもの生活の幅がとても狭まっていくことになるわけですが、自宅にいても大変です。
布団で寝ている時に嘔吐をするだけでも、シーツの交換、服の着替え、さらにはそれらの洗濯・・。こんなことにご家族が一日じゅう、時間をとられていくことになってしまうのです。
もし、嘔吐の回数を減らすことができれば、この子どもにとっては、生活の上での行動制限が劇的に解除される可能性がありますし、ご家族にとっても負担が大いに軽減されるかもしれません。
また、些細と言えば些細ですが、病院側と在宅医療側では、コスト的なことを一つとっても、感覚は大きく異なります。
(学会当日は、上の内容はあまりに壮大で触れることができず、こちらの話を少しするだけになってしまって後悔していました・・)
病院では、ある患者さんに少々在宅物品をたくさん渡して赤字になっても、病院全体で見ればたいした問題ではありませんが、在宅専門の零細クリニックにとっては無視できない金額であることも多く、病院で提供されているのと同じものを同じ数だけお渡しすることができない場合もあります。
ただ、そもそも私が病院に勤務していた頃、
「この物品はいくらするのか」
なんて考えたことはなかったというのが正直なところです。
今は大きな経営上の関心事ですが・・(^_^;)。
また、病院では処方できていた薬も、実は保険診療上認められた使い方がされておらず、クリニックが引き続いて処方すると全額査定(報酬がもらえないこと)されるなんてこともあります。
こういったことは、小児に限った話ではなく、成人領域の患者さんについても、在宅医療側と病院側との間でこまめに話し合っていることです。
私のクリニックの近くにあるいくつかの病院では、在宅医療側の意見を聞いてくださる懇話会などの企画がよくあります。
病院のスタッフと、開業医、訪問看護師、薬剤師、ケアマネジャー、その他の多くの職種の方が病院に集まり、それぞれの立場から連携のために課題と感じていることを、ざっくばらんに話し合います。
講演会や勉強会ばかりではなく、こういうフラットな話し合いの機会が、小児在宅医療をテーマとしても地域ごとに増えていけば、小児在宅医療と病院での医療が両輪となってうまく協力していくために相互理解が深まるのではないか・・と感じています。
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