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よしなしごと

「第2回日本小児在宅医療・緩和ケア研究会」

遅くなりましたが、9月3日(土)
第2回日本小児在宅医療・緩和ケア研究会
に参加してきました。
内容が盛りだくさんで、考えることも多かった研究会でしたので、数回に分けて報告したいと思います。
今回は、シンポジウム1.の内容の報告です。

<シンポジウム1>「小児在宅医療の現状」

座長は、宇都宮市にあるひばりクリニックの高橋昭彦先生。
この先生は、ご自身のクリニックで往診することになった人工呼吸器を装着した子どものレスパイトのために、クリニック裏に預かりレスパイト施設を作ってしまったというすごい方で、一昨年の研究の際に見学にうかがい、大きな感銘を受けた。
(研究報告書はこちらひばりクリニックHPはこちら、レスパイト立ち上げ報告書はこちら)
もう1人、予定では訪問看護ステーションほのかの梶原厚子さんが座長の予定であったが、悪天候のため東京に来られず、送られてきたメッセージがシンポジウムの最後に読まれた。

1.人工呼吸器を付けた子どもの在宅医療 医療的ケアから生活支援行為へ
人工呼吸器を付けた子の親の会(バクバクの会) 大塚孝司さん

<バクバクの会の基本理念>
「人工呼吸器を付けていても、どんな障害があっても、ひとりの人間でありひとりの子どもである。子ども達のいのちと思いを大切に。」

<バクバクっ子の生活の紹介>
写真でバクバクっ子の生活を紹介。
学校に通ったり、プールに入ったり、電車で外出したり、スキーをしたり・・・。他の子ども達と同じように生活を楽しむ様子のうらで、交通機関に承諾書や診断書を提出するよう求められたり、飛行機では割増料金が必要になる(大阪→沖縄のストレッチャー料金が49,000円加算される)などの不利益がある。

<医療的ケアから生活支援行為へ>
在宅生活の中で必要な医療的ケアについての考え方について。
医療行為はもともと医療職でなければできないとされてきたが、在宅生活を送る上で必要な行為については徐々に一般市民にも規制緩和されてきた歴史がある。
在宅生活を送る子どもにとって、医療的ケアは暮らしを支えるための「生活支援行為」であり、患者自身や患者家族だけではなく、研修を受けた他者にも実施してもらえるようにする必要性がある。
またその一方で危険を最小限にするための工夫や、普段からの関わりを持つことで緊急時の対応が可能になる。
そして、「どんな障害があっても、安心して普通の生活ができる社会になることをめざして活動を続けていきます。」という決意と、「バクバクっ子いのちの宣言(全文はこちら)」で締めくくられた。

2.新生児医療と重症児の在宅医療
埼玉医科大学小児科教授 田村正徳先生

<新生児医療の進歩と長期入院児の増加>
日本の新生児医療の進歩はめざましく、新生児死亡率は世界でも最小であり、以前は救命困難であった子どもも救命されるようになった。その一方で、人工呼吸器などを装着したままNICUに長期入院する子どもが増え、NICU病床不足の一因となっている。
2008年に起こった、いわゆる「墨東病院事件」は、脳出血が強く疑われた妊婦が「当直医が他の患者対応中」「NICUの空きベッドがない」などの理由で7病院から受け入れを断られ、出産後に亡くなったというもので、妊婦の「たらい回し」(この表現には医療現場から強い反発があり、その後「受け入れ困難」「受け入れ不能」と表現されるようになった)として社会問題化した。
これを受けて行われた厚労省の調査では、2009年度の母体搬送や新生児搬送の受け入れができなかった理由のトップが「NICUの満床」だったことが明らかにされた。
NICUベッドが不足する原因として、出生体重1500g未満の「極低出生体重児」が実数で増えているなど、NICUを必要とする子どもが増えていること、出生体重1000g未満の「超低出生体重児」の救命率が上がり、長期間入院を要する子どもが増えていること、などがある。しかし、医師・看護師の不足のためNICUベッドを増やすことは難しいため、長期間入院している子どもを早く退院させようという議論が巻き起こった。

<長期入院する子ども>
大きく分けると3つのグループになる。
・ 未熟性の高い早産児は、呼吸がしっかりするまでに時間がかかるため長期入院になりやすい。しかし、成長するにつれてやがて自分で呼吸ができるようになり、退院していくことが多い。
・ 染色体異常、先天性疾患などにより集中治療を必要とする子どもは、NICUで亡くなることも比較的多い。
・ 新生児仮死で脳に障害を持つ子どもは、急性期を乗り越えると、医療依存度は高いままだが状態は安定する。そのため、長期間NICUに入院し続け、なかなか退院できないことが多い。
新生児仮死の子どもを減らすために、新生児蘇生法講習会が全国で開催されるようになった。
また、長期入院児支援のためのコーディネーターを配置するなどの対応により、人工呼吸を行うNICU長期入院児は減少した。しかし、人工呼吸器を装着したままNICUから退院する子どもが年々増加している。

<小児の在宅医療>
家族の声として、レスパイトケアを受けられない、経済的負担が大きい(まず共働きは不可能)、訪問診療や訪問看護を受けられない、緊急時の入院受け入れ先がない、などの問題が挙げられている。
一方で、全国に約1万2千ある在宅療養支援診療所へのアンケートでは、20歳未満の患者を10人以上訪問診療したことがあるのはわずか31カ所である。今後小児を診療するための条件としては、紹介元の病院がいつでも受け入れてくれる保障があることや、小児科医とのグループ診療なら可能などの回答があった。
埼玉医大では、「埼玉小児在宅医療支援研究会」を発足させ、地域の小児科医や訪問看護師を集めて会議を行うようになった。しかし、会議に出席した方が実際に退院した後に子どもを診てくれるというところまでは至っていない。

3.「小さなたね」に願いを込めて
にのさかクリニック 二ノ坂保喜先生

<在宅ホスピスケアを通じて学んだこと>
外科医・救急医であった二ノ坂先生は1996年にクリニックを開設し、それ以来外来診療とともに在宅ケア、在宅ホスピスに力を入れてきた。
在宅ホスピスは、尊厳ある生を最期までささえる、人権活動である。
対象はがんに限られず、神経難病、認知症、重度障害のある子どもなども含まれると考えられる。
日本のホスピス病棟はがんとエイズの患者のみを対象としているが、これは日本にホスピスの考えを持ち込んだ時に生じた日本だけのゆがんだ考え方であり、がん対策基本法におけるホスピスの扱い方がさらにそのゆがみに影響を与えている。
イギリスやアメリカでは、多くのホスピスが在宅でのホスピス活動をささえるプログラムを持っているが、日本ではほとんどのホスピスにそのようなプログラムはなく、在宅や地域とのつながりが弱い。
ホスピスは、単に最期の時を過ごす病棟としてだけでなく、「死を見つめながら生きる」という市民の意識の形成に影響を持つ存在になっていかねばならないのではないかという問題意識を持っている。
日本では、死は病院医療の中に取り込まれてきたが、死は本来、本人にとって最大のイベントであり、家族にとっても大きな出来事であるため、生活の中に戻していく、言い換えると「看取りの文化」の再構築が必要である。

<ひかりちゃんとの出合い>
重度障害児の在宅ケアに取り組むきっかけは、ひかりちゃんという当時15歳の少女との出会いだった。脳障害で生活全般に介護を要するひかりちゃんが、繰り返す肺炎のために気管切開・期間喉頭分離術を受けて人工呼吸器を付けて退院することとなり、在宅でのサポートの依頼があった。この時、病院に出向いて退院前のカンファレンスに出席したが、驚いたことにその病院では、在宅医を交えた退院前カンファレンスはこれが初めてということであった。
在宅生活開始までの手続き、開始後の在宅と病院との比重の問題、在宅チームの役割と協力体制など、小児では課題が大きいことを感じた。一方で、在宅での生活は豊かなものであることも目の当たりにし、それを維持するためにはレスパイトケアが重要であると痛感した。

<ちいさなたねを開設して>
「地域生活ケアセンター 小さなたね」を2011年4月に開設した。ここでは、重度障害児の日中一時預かり(レスパイトケア)と、訪問看護ステーション、訪問介護ステーションを1カ所に集めて併設している。
所長はひかりちゃんのお父さん。開設半年で登録者は30名になった。
開設してからその必要性を改めて痛感した。重度障害児は地域に多数存在すること、家族負担が大きいこと、地域によって行政や関係機関の対応格差があることなどが見えてきた。
将来的には短期入所やこどものホスピスを目指していきたいと考えている。

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