近年、感染症の迅速検査キットがたくさん作られています。
よくある感染症のうち、保険診療で迅速検査を行うことができるのは、このブログを書いている時点で以下の通りになります。
インフルエンザ
アデノウイルス
RSウイルス(入院患者・乳児・シナジス適応のある子どものみ)
溶連菌
マイコプラズマ
ヒトメタニューモウイルス
ロタウイルス
ノロウイルス(3歳未満または65歳以上のみ)
当クリニックでは、太字で示した4つの迅速検査キットのみを導入しています。
往診バッグに入るものの数には限界があるので、一応吟味してこの4つを選んでおり、その理由は大きく分けると以下の2つです。
1.検査をすることで病気への対応が変わるかどうか。
例えば、多くの方がご存じの通り、インフルエンザには内服や吸入などの薬があります。
インフルエンザと診断がつけば、こういった薬を使うことによって、より有効な治療を行える可能性があります(インフルエンザ治療薬の効果については、現在様々な議論もありますが)。
また、出席停止期間が決められている病気ですので、この面でも診断する価値があるでしょう。
溶連菌は細菌で、抗生剤が効果を発揮する上に、溶連菌感染後糸球体腎炎の予防のためには決められた期間しっかり抗生剤を内服することが必要です。溶連菌感染であるとわかれば、このようなお話をきちんとすることもできます。
RSウイルスについては、ウイルスを直接やっつける薬はありません。
しかしRSウイルスは、乳幼児や、呼吸状態に不安のある子どもが感染すると重症化しやすいため、特に在宅医療を必要とする子どもでは、先の対応策を考える上では重要な情報になる可能性があります。
アデノウイルスにも、ウイルスを直接やっつける薬はありませんが、プール熱や流行性角結膜炎では出席停止期間が決められています。
一方で、ロタウイルス・ノロウイルスはどちらも、嘔吐下痢を主症状とする腸炎の原因となるウイルスです。
基本的に、このどちらのウイルスにかかったとしても、対症療法しかありません。
また、他のウイルス性腸炎と同様、明確な出席停止期間が決められている病気ではないので、少なくとも在宅療養を行う上で、原因を特定することによって対応が大きく変わることがありません。
ヒトメタニューモウイルスは呼吸器感染を起こすウイルスで、時に大流行を起こすこともありますが、対症療法以外に特別な治療法ありません。
いわゆる「風邪」の原因の一つで、これを特定することが、在宅医療を必要とする子どもでどれくらい臨床的に意味があるのか、現時点では十分な知識を持ち合わせていません(今後その意義を感じることになれば、導入するかもしれません)。
2.検査結果をどのくらい信用できるか。
検査には「感度」と「特異度」という、結果の信頼性を示す基準があります。
詳しくは統計学的な内容になるので省きますが、「病気であること」を高確率で知りたいのか、「病気でないこと」を高確率で知りたいのか、このどちらかによって、検査に求める性質が異なります。
マイコプラズマについては、私はどちらかというと前者であると考えています。
この場合、「特異度」は低くても、「感度」が高いことが要求されます。
しかし、現在使うことができる迅速検査キットでは、他の感染症の迅速検査キットに比べると「感度」が低いと言われているようです。
このあたりがもう少し改善されてくれば、導入を考えたい迅速検査キットの一つです。
在宅医療の中で行う感染症診断・治療には、医療機関で行うのとはまた違う難しさがあり、日々頭を悩ませているところです。
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