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よしなしごと

【旅日記】日本難病医療ネットワーク学会 その2

前回に引き続き、日本難病ネットワーク学会の旅日記です。(長文ですので時間のあるときにお読みください・・)
15日夕方には、シンポジウム「移行期医療と小児から成人まで切れ目のない難病支援」に参加しました。
そもそも「移行期医療(トランジション)」というのは、小児期発症の慢性疾患をもつ子どもが大人になった時に、慢性疾患を小児科医が診療し続けるのがよいのか、あるいは成人特有の病気を発症した時に誰が診療してくれるのか、そういった問題を俯瞰的にとらえる総合診療医的役割を誰が担うのか、など多くの課題を抱えています。
また、就学から就労へどのような支援が必要か、小児向けの福祉サービスから成人向けの福祉サービスへどのように乗り換えていくのか、など、医療に限らず問題の幅がとても広いのも、解決が難しい理由となっています。

シンポジウム最初の登壇者は九州大学の山村健一郎先生で、小児循環器科を専門とする立場から、これまでの同大学での移行期医療に関する取り組みと、留学されたカナダと日本の移行期医療の違いについて、お話がありました。
山村先生のお話は、同じように小児科医から成人領域に足を踏み入れた私にとって、とても示唆に富んでいて、非常に多くの情報が含まれていましたので、少し箇条書きにしてみます。

①小児医療の進歩により、悪性新生物を除くと、小児慢性特定疾病の子どもの95.7%が成人に達すると推定されている。(現在、小児慢性特定疾病の診断を受けている子どもは約14万人と言われている)
②欧米では1980年代から、慢性疾患を有する小児の移行期医療の取り組みを行われている。2002年には米国小児科学会・内科学会など関連4学会から、移行期医療に関する合同声明が発表された
③日本で移行期医療への取り組みが本格的に始まったのは比較的最近であり、2014年に日本小児科学会から「小児期発症疾患を有する患者の移行期医療に関する提言」が発表された

・・まずここまでで、「んん?」ってなりませんか?
米国で小児科学会・内科学会などの合同声明が出された12年後になって、日本はまだ小児科学会単独での提言の発表、というのが、まず現実だということです。
移行期医療に関わるのは小児科医だけではないはずなのですが、まだ日本では小児科医の中での議論に(少なくとも「提言」などの公的なレベルにおいては)とどまっているんですよね。

④カナダでは、18歳になると、どんな疾患を持つ子どもでも原則として成人領域の病院へ移行する。そのため、トロント小児病院では、移行をスムーズに行うためのパス「Good 2 go」を用いて、幼少期から子どもと親への支援を行っている
⑤九州大学病院では、2009年に「成人先天性心疾患外来」を開設、2014年に心疾患以外も対象とした「トランジショナルケア外来」を開設。トランジショナルケア外来を中心に、小児科と成人各科にも担当者を置き、科を越えて支援を行う体制をとっている。また、「Good 2 go」を参考にした移行支援プログラムを実施している。
⑥トランジションの支援をしている中では、基礎疾患によってその難易度が異なる印象がある。
・・九州大学は移行期医療について先進的だなと感じます。
日本で近年移行期医療が注目されだした一番の理由は、いわゆるトランジション症例に対して小児科医が対応することが難しく、それが無視できない数に増えてきた、ということからでしょう。なので、上述の通り、議論が小児科医の中でだけ行われているような現状があります。
トロントや九州大学の取り組みを聞くと、今すぐに特効薬を求めるのではなく、地道に先を見据えた対応をしていくことで、医療者側の都合ではなく、子どもと親にとってメリットが大きい移行期医療の実現を目指す必要があると感じました。

2番目の登壇者は、国立成育医療センターの生命倫理研究室・小児慢性特定疾病情報室の掛江直子先生でした。
小児慢性特定疾病事業の現状や、2015年の制度改正の前後での推移など、様々なデータを提示されましたが、持ち時間に比してお話の情報量がものすごく多くて小児科出身の私でも消化が難しかったので、成人領域の方々には少しお腹いっぱいになってしまわれたのではないかという感じでした。

3番目の登壇者は、愛媛県で小児慢性特定疾病児者の支援員をされている西朋子さんでした。
他の2名の方とは異なり、生活を実際に支える立場の方から見たトランジションの課題についてお話がありました。
他の方も少し触れていたのですが、小児期発症の慢性疾患を持つ方が大人になった際、自分の疾患についての理解度が必ずしも高くないことや、親が子どもを心配するあまり、成人になってもなかなか精神的に自立しにくい方がいることなど、支援を考える上での課題となることについて、具体的な示唆がありました。

今回のシンポジウムに参加して、現在のトランジションの議論は、12年前、私が関心を持ち始めた頃の小児在宅医療の状況ととても似ていると思いました。
あの頃、限りあるNICUの病床を有効に運用するために、長期入院となっている医療依存度の高い子どもを退院できるようにする必要性が高まりました。
そのために、新生児科医を中心に小児在宅医療の必要性について議論されるようになっていったのですが、実際に在宅医療を支える側の訪問看護師や保健師、成人領域を専門とする在宅医などは議論の輪にほとんど入っておらず、送り出す側の都合を受け止める側に説明する、というだけのような時期があったのです。
少なくとも大阪で、小児在宅医療がうまく推進できるようになっていったのは、病院小児科の医師や看護師などが地域に出て行き、訪問看護師や保健師、開業小児科医などと一緒に、「どうすれば家に帰った子どもと家族が幸せになれるのか、そのために自分にできることは何か」という視点を共有し、議論を積み重ねてこられたことが大きかったと思います。

そのような視点で言うと、今回のシンポジウムは、トランジションを受け止める側の成人領域で支援を行う方の集まる場に、送り出す小児科側の方が出向いて行き、問題提起をしたという点で、とても大きな意義のあるものだったと感じました。
しかし、医療提供者側の都合でトランジションを議論してもうまくいかないのは、小児在宅医療を推進したときの状況を考えれば当然ではないかと思います。
本気でトランジションの推進を考えるなら、小児科医だけで議論していることが多い現状から、今回のシンポジウムのような成人領域の支援者の集まる場での討論を増やしたり、公的にも成人領域の学会を巻き込んだりして、関係者が一緒になって、「どうすればトランジションした子どもと家族が幸せになれるのか、そのために自分にできることは何か」という視点を共有して、議論を積み重ねていく必要があるな、と感じました。

まだまだ感じたことはいっぱいありますが、あまりの長文になったのでこの辺で・・。

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