来週からの小中高校いっせい休校要請など、新型コロナウイルスへの対応が日に日に変わっていく状況に、当クリニックもどのように正しい情報を得て、ニーズについていくのか、頭を悩ませています。

マスクの品薄状態は以前から報道されていましたが、最近は手指消毒用アルコールが品薄になり、そのあおりでアルコール綿や除菌シートといった商品もドラッグストアなどで手に入りにくくなっているようです。



先のブログで書いたとおり、普通の生活を送る上で、マスクは感染予防のために必要というわけではないので、焦って買いに走る必要はありません。

アルコール綿などによる物品の消毒について、医療的ケアを必要とする子どものお母さんなどから、品薄になったらどうしようというご相談を何回かいただきましたので、個人的な見解を以下に述べたいと思います。

※あくまで、自宅内で「家族」が「1対1」で医療的ケアを行う場合を想定しています。医療機関内や学校・児童デイサービスなど「1対複数」で医療的ケアを行う場や、訪問看護師やヘルパーが行う場合などでは、また異なる対応が必要なこともあると考えていますので、ご注意ください。

※以下で述べている見解について、いわゆる「エビデンス」となるような研究や論文はありません。「○○すればチューブ内の菌が減った」みたいな報告はありますが、「感染症発症リスクが減った」あるいは「増えた」というようなものは全くないので、あくまで経験則であることをご理解ください。

※新型コロナウイルス予防のためには、基本的な手洗いうがいの対応はしている、ということが前提です。

※以下の方法を導入されるかの判断については、主治医にご相談の上でお願いします。




1)気管切開カニューレ内の吸引にアルコール綿は必要か?

多くの病院で、気管切開カニューレ内の吸引を行う際に、その前後でアルコール綿を用いて吸引チューブを消毒するように指導されています。

一応、当クリニックでも平常時には、気管切開カニューレを挿入している方へはアルコール綿を使用した方法を指導しています。

ただ、これが本当に必要なことかどうかは、意見が分かれるところです。



気管内吸引は、チューブを用いて何かを身体の中へ入れる行為ではなく、身体から分泌物を吸い出す行為ですので、仮にチューブが少々菌で汚染していたとしても、チューブの表面に付着したものが処置の際にこぼれ落ちたり、カニューレに付着したりする程度です。

その程度であれば、消毒効果のあるものを使わなくても、例えば清浄綿(ごく薄い消毒液が含まれる濡れた脱脂綿)などでチューブをぬぐい、表面の汚れをしっかり落とせば十分ではないか、という意見もあるのです。

私は基本的に、この意見に近い考え方をしています。

その根拠、これは少し言いにくいのですが、医療職が指導した方法を守っていない家族は結構おられ、それでも他の子どもと比べて感染症発症リスクに差があるとは言えない、という経験則なんですよね。

なので、もしアルコール綿を手に入れることが困難であっても、清浄綿までが品薄になることは今のところはまだ考えにくいと思いますので、代わりの手段として十分検討可能ではないかと思います。



2)ミルクや栄養剤の注入時や注入用物品の清潔保持に消毒液は必要か?

経鼻胃管や胃瘻からミルクや栄養剤を注入されている方の中には、イルリガートル(注入用ボトル)や栄養セット(点滴のようなルート部分)をミルトンなどの消毒液で消毒したり、液に浸けて保管するように指導されている場合があります。

しかし、当クリニックでは、免疫抑制状態などで特別な配慮を必要とする方を除き、こういった対応は不要であると指導しています。



確かに注入は吸引と違って、身体の中にものを入れる行為ではあります。

でも、注入って結局、哺乳や食事と一緒なんですよね

ですから、哺乳瓶や食器をきれいにするレベルでこれらの物品をきれいにしておけば、それ以上の清潔度を求める必要はないと考えて、普通に食器用洗剤で洗って乾燥させて保管、普通に手洗いをしたきれいな手で接続、という指導を行うようにしています。

実際、開業以来この指導を行っていますが、細菌性腸炎を起こしたなどのトラブルに遭遇したことはありません。



少しでも皆さんのご参考になればと思います。