かなり前からテレビなどで騒がれている、いわゆる「新型出生前診断」について、今日届いた「大阪府医ニュース」という新聞に分かりやすい記事が載っていたので、紹介します。
この検査については、倫理的なことも含めて問題が山積していると思っています。
倫理的議論が必要なのはもちろんなのですが、それ以外にもあまり知られていない大きな問題があるのです。
この検査については、「血液検査だけで99%以上の確率でダウン症かどうか分かる検査」と大々的な報道だったことで、一般の方に誤解が広がっています。
この表現は大きな間違いで、正確には、35歳で約4分の1、40歳でも約10分の1の確率で、検査結果が陽性でもダウン症ではない可能性があります。
高校時代に確率統計を勉強された方は、「感度」と「特異度」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、この両方が99%以上であるのは確かなことです。
これはこれで、いわゆる検査の精度としてはかなり優秀な部類です。
しかし、感度と特異度が99%以上だからと言って、「99%以上の確率で分かる検査」というわけではないのです。
ある妊婦さんが検査を受けて陽性と出た場合に、それがどれだけ信頼できる結果なのかを示す確率を、「陽性適中率」と言います。
陽性適中率の詳しい計算方法は下の新聞記事にありますので、そちらをご覧ください。
検査を受ける方からすれば、感度がどうの、特異度がどうの、なんてことよりも、
「私の結果は信用できるのか?」
の方が切実な問題なはずで、これを示すのが陽性適中率なのです。
テレビなどの報道では、この陽性適中率が99%かのような表現をされていたので、多くの方が誤解されていますが、決してそうではありません。
陽性適中率は、40歳でも90%、35歳では75%程度でしかなく、これが20台の妊婦さんとなると、約50%にまで下がってしまいます。
すなわち、若い妊婦さんほど、
「検査が陽性だったけど実はダウン症ではない」
という確率が上がっていくわけです。
テレビなどでは、「希望すれば誰でも受けられる検査にすべき」という論調で訴える方がちらほらおられます。
しかし、若い妊婦さんほど検査の不確実性が増してしまうため、ある程度高齢の妊婦さんのみを対象として、適応年齢を区切る必要性があるのです。
この新聞を読んだ方の中には、「陰性適中率が高いのだから、陰性だったら安心できるから検査する意味があるんじゃないの?」
と思われる方もいるかもしれません。
これについては、確かにこの検査だけを考えればそうなのですが、そんなに単純な話ではありません。
この検査で分かるのは、あくまで染色体の数が異なるタイプの先天性疾患だけです(その代表がダウン症です)。
他にも染色体の数が他の赤ちゃんと同じ先天性疾患はものすごくたくさんありますが、それらについてはこの検査では分からないのです。
それに、成長発達を見ていかないと分からないような子どもの疾患もたくさんあります。
だから、この検査が陰性だとしても、お腹の赤ちゃんに問題がないというお墨付きにはならないのです。
今回は敢えて倫理的側面についての議論は外しましたが、確率論だけでもこのような問題を抱えていることはあまり知られておらず、広く実施するには相当慎重になるべきではないかと私は思っています。
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