3回連続になりますが、日本未熟児新生児学会の旅日記を書かせていただきます。
(↓過去2回分はこちらから↓)
・旅日記・日本未熟児新生児学会
・続・旅日記・日本未熟児新生児学会
今回は、フロアからいただいた質問の2つめ、
訪問看護で小児を受け入れてくれるところが少なくて困っているが、どうすれば小児の受け入れが進むと考えられるか。
について、書かせていただきたいと思います。
少し古くなりましたが、まだ私がNICUに勤務していた2009年に、大阪府下のすべての訪問看護ステーションを対象に、小児在宅医療についてのアンケートを行ったことがありました。
詳細な結果については、こちらの報告書の15~23ページをご覧いただければ幸いです。
この中で、すでに小児の受け入れ経験のある訪問看護ステーションのうち、今後小児の受け入れを拡大する予定があるかどうかを問うた後、「拡大する予定はない」と答えた41のステーションに、その理由を聞きました。
この結果は、実際に小児に対応してみたものの、困難さを実感された訪問看護師さんの答えであり、そこには今後への課題が含まれているように思います。
拡大する予定がない理由として選ばれたものを、上位から並べます。
1)人手不足
2)小児の訪問看護の経験が少ない
3)小児科経験のある看護師が少ない
4)小児のケアを知る機会が少ない
5)医師との連携が不十分
6)ケア依存度が高い
7)疾患について知る機会が少ない
8)手技が難しい
9)報酬が見合わない
10)その他
1)~3)については、ある意味訪問看護ステーション側の問題であるので、病院の先生が何かを働きかけることによって変革していくことは難しいかもしれません。
ただ、実際に小児に関わってくださっている多くのステーションが、「小児科経験の有無はあまり関係ない」と言われており、このあたりは以下に述べるような対応によって変わってくる可能性はあるかもしれません。
比較的対策がとりやすいものは、4)です。
近年は各地域で、小児在宅医療の実技講習会や、勉強会などが数多く開催されるようになりました。こういう機会が増えることで、少しずつ抵抗感を低くしていくことができるのではないかと思いますし、実際にかなりの数の訪問看護師さんが参加されているとうかがっています。
しかし私は、実は本質的には5)が一番大きな問題なのではないかと感じています。
実施した時には思慮が及ばなかったのですが、このアンケートは記名式で、しかも実施したのがNICU勤務医である私でした。
つまり、アンケートに答える側である訪問看護ステーションの方にとって、自分の身分を明かした上で、名指しで医師を批判するような選択肢は選びにくかった可能性があります。しかし、そんな中でも比較的上位の理由としてランクインしているのです。
さらに、これを裏付けるように、自由記載欄に以下のような意見が多数寄せられています。
小児に対応する訪問診療可能な医師がいない・少ない・いるのか知らない
小児科開業医がもっと重症の児に対応してほしい
この2つの意見は、基本的に同質であると考えられます。
他の設問での回答にもあるように、小児の訪問看護の一つの特徴として、訪問看護指示書の発行元のほとんどが病院の主治医であるという実情があります。
もちろん、成人でも病院の主治医の先生が指示書を発行している場合もあるのですが、小児に比べると成人領域では病診連携が進んでいます。当クリニックの近隣の病院の中には、訪問看護指示書は作成しない(=かかりつけ医を必ず見つけるように)と決めているところもあるくらいです。
訪問看護ステーションにとって、病院の小児科医に連絡を取るというのは、一般的にはかなりハードルの高いことです。ましてそれが、普段からよく顔を合わす仲ではないとなれば、なおさらです。
実際、私がNICUに勤務していた時、産まれた赤ちゃんの蘇生中に訪問看護師さんから電話がかかってきたとしても、すぐに対応できていたとは思えません。
電話をかけてもつながらないことが増えると、ちょっとしたことで連絡を取ることがはばかられるようになり、多くのステーションにとって、ただでさえ不慣れな小児への訪問看護なのにもかかわらず、誰にも頼れず訪問することになってしまうわけです。
ここに、ちょっと気になることを相談できる医師が近くにいると、訪問看護師さんは動きやすくなる可能性があります。(実は、私が開業以来一番やろうと思っていることは、相談先の医師となることで訪問看護師さんとの連携を構築することです)
ですから、長期的なスパンで考えるのであれば、小児を受け入れてくれる訪問看護ステーションを増やそうと思ったら、小児に対応してくれる在宅医、あるいは在宅医療に対応してくれる小児科開業医を増やそうという取り組みを、同時にしていく必要があるのではないかと思っています。
とはいえ、一朝一夕に増えるわけではありませんから、こういう取り組みの一方で、病院の先生と訪問看護ステーションの間で、お互いが言いたいことを言い合えるような関係を作り、ちょっとしたことでも相談できるように、病院側のハードルを下げる努力も同時進行でしていくことも考えていただければと思います。
もちろん、これ以外にも課題はたくさんあります。
しかし少なくとも、訪問看護は病院から頼みっぱなしにするのではなく、双方向的に情報のやりとりができ、困ったことを相談し合えるチームとして成り立っていくための方法を考えることが、訪問看護の受け入れが進むための最大の策であることには変わりはないのではないか・・と思っています。
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