8月4日の大阪府と大阪市の合同記者会見で、ポビドンヨード(いわゆるイソジン)うがいの新型コロナウイルスへの効果の可能性について発表がありました。

この発表の影響で、すでにドラッグストアからはポビドンヨードうがい液が買い占められる事態となり、当クリニックへも処方の希望が寄せられる事態になっています。

大阪府のホームページに、今回の会見資料が掲載されていたので、リンクを張っておきます。

http://www.pref.osaka.lg.jp/kenisomu/povidon/index.html

この資料を見ると、今回の研究で明らかになったことは、

ポビドンヨードでうがいをすると、全くうがいをしないより、唾液中のウイルス量が減りそうだ

ということのみ、と言ってよさそうです。

ちなみに会見の中では、可能性があるかもしれないメリットとして言われていたのは、

・唾液を誤嚥する人にとっては、唾液中のウイルス量が減ると肺へたどり着くウイルス量が減るので、肺炎リスクが下がるかもしれない。

・会話などで唾液を周囲にまき散らした時に、唾液中のウイルスが少ないと他人にうつしにくいかもしれない。

という2点でした。

なるほど・・言われてみると、何となくそんな気はしないわけではありません。

しかし、この研究の発表資料を見ると、末端医療職の私から見ても、ツッコミどころがいくつかあります。

最大の謎は、

・水うがいとポビドンヨードうがいの間で差はあるのか?

という素朴な疑問です。

そりゃ、定期的に洗い流せばウイルス量は減りそうなイメージはできますが、それって水でもいいんじゃないのか、という話で、事実、一般のいわゆる風邪に対しては、ポビドンヨードうがいは水うがいに比べて効果が高いわけではないと明らかになっています

もちろん、新型コロナウイルスでは差がある、という可能性がないわけではないですが、この発表内では示されておらず、判断ができません。

仮に、この最大の謎に対して「差がある」と言われたとしても、まだ他にも、

・ポビドンヨードうがいを中断したら、その後唾液中のウイルス量はどうなるのか?

・PCR検査での偽陰性が増えてしまい、初期診断の遅れにつながってしまわないのか?

・甲状腺機能への影響や常在細菌叢への影響を上回るメリットが本当にあるのか?

などなど・・。

安易に「エイッ」と飛びつく気にはなれないだけの謎がいっぱい存在します。

以上のようなことから、当クリニックの現時点での考え方としては、今回の発表の内容だけでは効果とリスクについて判断するだけの材料には乏しく、もっと詳しい発表や追加での研究結果を待つ必要があると考えています。

記者会見の中には、医療職へのイソジンうがいの使用を勧めるような内容も含まれていました。

しかし、現状ではメリットがデメリットを上回るという明らかな根拠がないため、当面は当クリニックのスタッフの日常的な使用は考えておりません

こまめな手洗いや手指の消毒、マスク着用、3密の回避などによる基本的な感染予防対策については、これからも精一杯行う方針でおりますので、ご理解のほどお願いいたします。

なお、医師が処方できるポビドンヨードうがい液であるイソジンガーグルなどは、現在、一部の例外を除いて保険適応から外れております。

新型コロナウイルス感染予防目的での処方を依頼されても、原則として当クリニックからは処方できませんので、あわせてご理解いただきますようお願いいたします。