今年の5月、処方可能な経腸栄養剤が2つ増えました。
「ラコールNF経腸用半固形剤」と「エネーボ」です。
それぞれに、今までの経腸栄養剤にはなかった良いところがあり、両方とも、当クリニックで訪問している方に処方するケースが増えてきました。
これまでの数ヶ月間だけの使用経験ですが、ちょっと感じていることをまとめてみました。
まず、「ラコールNF経腸用半固形剤」について。
これは、栄養的な成分としては、今までの「ラコール」と同じです。
違うのは、
1)始めから 液体ではなく、半固形(つまりドロドロ)になっている。
2)ラコールは1パック200mlで200kcalだったのが、半固形剤は300gで300kcalと大きくなっている。
実際にこれを使い出すようになって、結構良い変化が起こっている方が多い実感です。
半固形のため、液体に比べて注入した後に胃の中でとどまりやすくなります。
その結果として、胃瘻の周囲からの漏れが少なくなったり、胃食道逆流が起こりにくく嘔吐が減ったり、ゆっくり消化されるために下痢が減ったり・・というような効果が生まれています。
今まで、液体の経腸栄養剤にトロミをつけて使用していた方も多いので、その手間がかからないのも良いところです。
ただ、困る点を挙げると・・。
1)一度パックから容器に中身を出して、カテーテルチップで注入しなければならない。
ドロドロの性状のため、つるしておいて自然に滴下するようなものではありませんので、手押しでカテーテルチップ(シリンジ)を用いて注入します。
実は、直接胃瘻のチューブに接続して注入できるようになっているデバイスが出ているのですが、使い捨ての上に保険適応ではないため、使うとなると結構な出費になりますので、現実的にはカテーテルチップで注入している方ばかりです。
これが少し面倒ですね。
2)1パック300kcalに増えた。
成人では1回300kcal程度注入する方が多いのですが、小児では特に1パックを分けて使わないと行けない場合が増えました。
まあ、これは良いとも悪いとも言えないですが・・。
3)胃瘻からの注入にしか適応がない。
これが一番痛いです。
今までのラコールには、経口投与も保険適応が認められていたのですが、今回は適応になっていません。
むしろ液体より半固形の方が、経口投与に向くであろう形態をしているのに・・。
これはぜひ、経口投与も適応に入れてもらえるように期待したいところです。
次に、「エネーボ」について。
比較対象となるのは、同じ会社から以前より出ている、「エンシュア」および「エンシュアH」です。前者は1ml=1kcal、後者は1ml=1.5kcalと、濃度が違います。
これらとの比較上の違いは、
1)今までの経腸栄養剤には含まれていなかった栄養成分を含んでいる。
2)食物線維を含んでいる。
こちらは、形態ではなく、中身を変えてきました。
特に、最近よく問題になる、長期にわたって経管栄養を行っている場合に欠乏しやすいカルニチンや、セレン、モリブデン、クロムなどの微量元素を含むようになり、小児が長期間にわたって使用する場合には、今までの栄養剤より欠乏症になりにくいと言えると思います。
それと、食物線維を含むことによって、今までのエンシュアよりも下痢になる子どもが減っている印象があります。
ただ、こちらにも困る点がいくつかあり・・。
1)1缶250mlで300kcal(1ml=1.2kcal)と計算しにくい。
これは、ラコールも1パック300kcalにしているので、300kcalを1単位にしようという世の流れがあるのでしょうけれど、いかにも濃度が微妙です・・。
特に、長期使用する患者さんに使いたい成分バランスなので、エネーボの主な対象には小児が想定されるのですが、小児の場合には小分けして使うことが多いので、トータルカロリー量を決めた時に、そのカロリー量のために何ml入れれば良いのか、瞬時にわかりにくいのが辛いところです。
2)滴下が悪い。
訪問先の成人、小児の両方の方から、エンシュアやエンシュアHに比べると、注入時に滴下が悪く、詰まりやすいという声が結構出ています。
製薬会社の方に勉強会をしてもらった時にもそのことを伝えたのですが、資料上、粘度はエンシュアHとほとんど変わらないというのです。
しかし、エンシュアHからエネーボに変更した方でも、変更後に注入が途中で何度も止まるという経験をしている方が結構います。
これはぜひ、製薬会社の方にも検証していただきたいと思うのですが、想像するに、食物線維を加えたことによって、粘度という尺度でのみでは測れない性状の変化があるのではないでしょうか・・。
実は私自身、口の中の手術をしたために、それぞれを1缶一気飲みする機会がありました。
一気飲みした感想では、エンシュアHよりエネーボの方が、口の中にトロリと残るような感覚がするように思うのですが、これが詰まりやすさと関係ないのかなと・・。(あくまでこれは個人的な感覚での話ですが)
いっそそれなら半固形、というのでも良かったように感じてしまいます。
あと、両者ともに共通しているのは、まだ味が1種類しかありません。
好みに合わせたフレーバーが増えれば良いですね。
どちらも出たばかりで、まだこれから変わっていくのかもしれません。
いずれにしても、今までの栄養剤に加えて選択肢が増えたのはうれしいことです。
願わくば、もっと改良されて、さらに使いやすくなってくれれば・・と思っています。
南條先生
千葉のささきです。(さよこの方です)
今、エネーボを使っている子がいてエンシュアとどう違うのかなあ〜と調べていたらここを見つけました。とてもわかりやすくて助かりました。
滴下しにくい、なるほど確かに途中で止まることがありました。注入後、しっかりフラッシュすれば大丈夫でしょうか。
またわからないことがあったら連絡させて下さいね!ちなみに私はいま、元あおぞらのナースの三谷さんが管理者をしている柏の児童デイで重心の子たちと楽しくやってます^ ^南條先生もご活躍ですね!ガンバッてくださいね!
佐々木佐代子
佐々木様
ご無沙汰しています。応援コメントありがとうございます^^
とりあえず、エネーボのせいで胃瘻や胃管が閉塞してしまうまでのことは経験がありませんが、滴下途中に止まってしまうことは結構あるようです。
フラッシュすれば、閉塞してしまうまではないとは思うのですが・・。
メーカーの発表では、エネーボとエンシュアHの粘度は大差ないということになっているのですが、使用感としてはかなり違います。
児童デイでの佐々木さんの笑顔が目に浮かびます。おたがいがんばりましょう!
初めまして
エネーボのとろみ剤について調べてましたら、こちらを見つけました。
早速ですが、エネーボに合うとろみ剤を教えていただきたいです。
今までは逆流による誤嚥性肺炎を起こしやすいため、エンシュアにネオハイトロミールを使用し、イリゲーターとシリンジ両方法で胃瘻から注入していました。
今回エネーボに変えてみたのですが、ネオハイトロミールは使用できず、それに変わるとろみ剤を探しています。
イリゲーター・シリンジ両方法に使えるとろみ剤がありましたら教えて下さい。
山田理恵さま
初めまして。コメントありがとうございます。
「エネーボにネオハイトロミールが使えない」というのは、使うと何が起こるのでしょうか? また、ネオハイトロミールにはいくつか種類があるようですが、そのうち何を使用されていますか?
もし増粘効果が弱いのであれば、一般論として、とろみ剤を一度混ぜて静置してから時間をおいてもう一度混ぜると、栄養剤の場合には増粘効果が強くなるようです。
求めている粘度や使い勝手が、その方その方によって違うので、一概に「これがいいですよ」とは言うのは難しいところです。
クリアなお答えができず申し訳ありません。
早速のご回答ありがとうございました。
何故使えないのかは病院でエネーボはネオハイトロミールでは固まらないので使えないと説明をいただきました。
今使っているネオハイトロミールは top balanceのネオハイトロミールIIIです。とろみ剤の中では少量でとろみがつくとの説明書きがあります。
今はとろみ剤を混ぜずにそのまま使っているのですが、何となく注入後痰が増える気がして、それが逆流による誤嚥性肺炎にならないかと心配して
ます。
逆流を起こさないために少しとろみを付けて注入出来ると良いかと考えてます。
それによるとろみ剤があれば良いのですが。
返信が遅くなり申し訳ありません。
エネーボがネオハイトロミール3で固まらないというのは、私は存じませんでした。
一般的に、エネーボに使ってはいけないとろみ剤というのはないと思うのですが、経験的にそうなのかもしれません。
https://www.aandd.co.jp/adhome/pdf/tech_doc/analytical/sv_enge2015_03.pdf
これは東大の耳鼻咽喉科の作成されたスライドで、粘度計のメーカーHPにあるものなのですが、時々私は参考にしています。
この表内にはネオハイトロミール3は載っていませんが、載っているとろみ剤は効果の差はあれど、とろみを付けること自体はできているようです。
ご参考までに。
お忙しい中調べていただきありがとうございました。
私も病院で固まらないと説明を受け悩んでいたのですが、念のために自ら試してみました。
エネーボ1缶に2.5gのネオハイトロミールを混ぜたところ、少し時間はかかりますが7-8分で固まり始めました。
以前のエンシュアは混ぜてすぐイリゲーターで全開で落としていたのですが、今はシリンジでゆっくり注入してます。
早く試せば良かったと反省してます。
ご丁寧なご回答ありがとうございました。
こんにちは、患者さんに、ラコールを胃ろうからいれるさい、空気を入れてラコールに圧力をかけて注入してますが、どうしても流れが止まってしまいます
コメントありがとうございます。
「空気を入れてラコールに圧力をかける」というのは、加圧バッグを使用されているのでしょうか?
加圧バッグは最後のひとしぼりまで入れられないことが多いので、最後は人の手で押し出す必要があるかと思います。