感染症予防のために診察内容を変更しています。詳しくは、新型コロナウイルスなどの感染症対策についてをご確認ください。

小児在宅

オンラインセミナーを振り返って

 
今日の午前中は、「在宅医から見た感染予防の実際」というオンラインセミナーの講師役を務めさせていただきました。

感染症の専門家ではない私がこういった役を引き受けて良いのか悩む部分もありましたが、現場の人間の一人として一緒に悩みましょう、という意味で引き受けさせていただき、それなりに意味のあるディスカッションができたのではないかと振り返っています。

新型コロナウイルス対策が長期化し、一般社会でも非常に悩ましいことが多く、施策も一定しない状況が続いています。

そのような中で、特に在宅医療を必要とする子どもを支える医療福祉の現場では、エアロゾル発生の可能性がある処置や、流涎の多い利用者さんへの対応など、普段から難しい対応を日常的に迫られています。本当に頭が下がる思いです。

新型コロナウイルス流行の第三波と呼ばれる状況に入り、訪問診療先や連携先の方からは、「○○はしても大丈夫か」「○○はやめた方がいいのか」といった質問を受けることが多くなりました。
これらの質問に対しては、お答えすることがとても難しいのです。少なくとも、感染予防対策として「○○しておけば大丈夫」といったような、100%の安全というものはありません
安全性と、それのために行う対策の労力(費用や時間、あるいは失うものやそれによるデメリットなども含む)については、一般に写真のグラフのような関係があるのだそうです。

 

これはとてもイメージしやすいグラフですね。

例えば、「歩行者の交通事故を防ぐ」ということで考えてみます。
①誰でもできる労力の少ない対策としては、「歩道を歩く」「信号を守る」などが考えられます。
②でもこれだけで交通事故の危険性が高いところは残ります。もっと可能性を低くしようと思えば、個別的に事故の起こりやすいところを改善していく、という対策が次に出てきます。例えば、「交通事故多発する交差点に注意喚起の看板を立てる」「通学路から事故多発ポイントを外す」などの対策が考えられるでしょうか。
③これでもゼロとは言えません。さらにリスクを下げるために、「交差点や踏切の立体化」「自動車に歩行者感知センサーや自動ブレーキを装備する」などが進んできていますね。しかしこれには相当の労力を要しますし、すぐにできることではありません。

④究極、絶対交通事故に会いたくないと考えるなら、これはもう「出歩かない」しかないわけですが、これで失うものはとんでもなく大きくなってしまいます。

新型コロナで言えば、
①は、「ソーシャルディスタンスを保つ」「距離が保てなければマスクを使用する」「手洗いをしっかり行う」あたりでしょうか。
②の、個別にリスクの高いところを何とかしよう、というのが、「三密の回避」「会食を自粛」などになってくるかと思います。
このあたりまでは、それほどの労力やデメリットを伴わないのですが、
③さらにリスクを下げるために、「エアロゾル発生の可能性のある医療的ケアを控える」「身体接触の大きなリハビリを控える」といったレベルのことを始めると、吸引しないことによる肺炎などのリスクが大きくなったり、リハビリをしないことで身体が硬くなってしまうなど、新型コロナウイルスへの少しの安全性上昇と引き換えに、他の面でリスクが大きくなってしまうことが出現し始めます。

④それでも怖いからもっとリスクを下げる、と言うならば、交通事故と同じく、「全てのサービスを断って自宅にこもる」のが、新型コロナウイルスだけで言えば一番安全ですが、失うものが相当レベルになる覚悟が必要ですよね・・。

事業所の側にも利用者の側にも、「100%の安全はあり得ない」という共通認識は必要だと思います。
その上で、労力はそれほどでもなく効果が大きいことが立証されている感染予防対策は、全力で進めるべきでしょう。
ですが、労力が大きい割に効果がそこまででもない(or他にデメリットが相当出てくる)対策をどこまで行うかについては、これは事業所側のポリシーであったり、利用者さんの理解であったり、いろいろな要因で線引きをどこで行うかを考える必要があると思います。
こういったリスクの取捨選択って、先の交通事故の例のように、普段の生活でいっぱい無意識に行っていることだと思うんです。

新型コロナウイルスは、それを思い切り意識させられる点で、とても難しい感染症だなと感じています。

あと、こういう負担の大きい生活が長期化してくると、「○○を設置しておけば大丈夫!」「●●がないと危ないですよ!」みたいな巧みな言葉で、いろんなモノを売ろうとする人たちが現れます。
残念ですが、そんなものは当然存在しません。もしかすると数十年後に意味があったと判明するようなモノが中にはあるかも知れませんが、そんな可能性にすがるよりは、基本に忠実な対策を行うことが大切だと思います。

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