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よしなしごと

小児在宅医療の24時間対応

最近、小児科の開業医の先生や、成人領域の在宅医療をされている先生とお話をする機会が増えてきました。
新生児科医から在宅医に転身した私は珍しい存在ですから、皆さんからいろんな質問をいただきます。

私の方からも、
「ぜひ小児在宅医療に関わってみてください」
というお話をさせていただくのですが、魅力とやりがいを説明するには、とても短時間の挨拶だけでは難しいものです。

さて、地域で小児在宅医療に関わってもらう医師を新たに見つける場合には、大きく分けると以下の2通りになります。
・小児科開業医に在宅医療への参画をお願いする。
・成人領域の在宅医療を行っている医師に小児への対応をお願いする。
今回はこのうち、「小児科開業医に在宅」に絞って考えてみたいと思います。

小児科開業医の先生に在宅医療のお話をすると、決まってこう言われます。
「急変したら駆けつけるなんて、外来の診察しながらじゃできないよ。
 それに、24時間対応なんて、大変でしょ?」

私自身も覚えがありますが、小児科医の先生の多くは、病院勤務医時代に当直業務を経験しています。
感染症が流行している時期に病院で当直していると、夜間救急外来の患者さんがひっきりなしで、一睡もできない夜も珍しくありませんでした。
多くの小児科医の先生にとって、24時間対応と聞くと病院での当直の記憶がよみがえってくるので、他の科の先生に比べても拒否感が強いのかもしれませんね。

小児在宅医療は主に医療依存度の高い子どもたちが対象となりますから、こういうイメージを持たれてしまいがちです。
しかし・・。

月別往診回数月別電話再診回数

グラフの通り、開業からの1年数ヶ月間、小児の患者さんは右肩上がりで増えているのですが、夜間の臨時往診・電話再診とも、回数はそれほど増えていません。
(時間内の臨時往診と電話再診の回数はグラフの通り増えています。
また、データはないものの、休日日中の往診、電話再診に含まない電話・メール相談(主に訪問看護からの問い合わせ)は実感として増えています。
患者さんの総数は、おおむね「訪問診療数÷2」です。)

これにはいくつかの理由があると考えています。

1)退院直後が一番不安・・

NICUなどに入院していた子どもが自宅に帰る時に、在宅医療の調整の一環として訪問診療を頼まれるケースが多くあります。
長期間の入院生活から在宅生活に移行する時、環境がガラッと変わりますから、子どもは慣れるまでに時間がかかります。
それに、お母さんをはじめご家族にとっても、退院直後に不安が大きいことが多いですよね。

これは、在宅医療の提供側にとってもある意味で同じです。
今まで診たことのない子どもの診療を始めるのですから、こちらも慣れるまでに時間がかかります。
「ちょっと体調がおかしい」というような時にも、どんな時にどれくらい普段と様子が違うのか、見たことがありませんので・・。

だから最初のうちは、「調子がおかしい」という連絡があった時には、どんな状態かを直接早めに診せてもらう機会が多くなりますので、夜間でも往診することが比較的多い傾向です。
それを繰り返していると、だんだん「これくらいのことだったら、○○しておけば大丈夫そう」という共通認識が、お母さんやご家族との間でできてきます。
また、「こういうトラブルが起こりそう」と、前もって予測が立つようになることも多く、体調が悪くなった時の対処法について事前に決めておける場合もあります。

こうやって、少しずつ夜間の往診の必要性が低くなる場合があるのが、一つ目の理由です。

2)往診にかかる時間的な問題

冒頭で書いたように、「急変したら駆けつける」というイメージで臨時往診をとらえている先生は、小児科の開業医の先生だけでなく、病院の先生にも少なからずおられると思います。
しかし、往診用の車両は救急車ではありません。(最近では救急車両を使う在宅医の先生もおられますが、一般的ではありません)
また、平日の日中は訪問診療に出ていますし、夜間休日の当番の医師は自宅待機ですから、往診の依頼があっても瞬時にクリニックから出動できるとは限りません。

当クリニックでは、夜間休日にはどんなにがんばっても1時間程度はお待たせする可能性があり、平日でも状況によってはそれ以上かかる場合があることを、最初の段階で説明させていただいております。
逆の言い方をすれば、分単位での対応が必要なレベルの状態変化に対しては、往診で対処することは困難な場合も多いのです。
状況を電話で伺って、「往診を待てる状態ではない」と判断した場合には、救急車での搬送を指示することもあります。この場合には、搬送先の病院(小児ではほとんどの場合、病院主治医のいる病院です)に電話で状況を伝えて受け入れをお願いすることで、スムーズに搬送してもらえるようにしています。

このように、子どもが夜間に緊急で診療を要する状態になった場合には、往診対応では間に合わないと判断することが少なくないのも、理由の一つとなっています。

3)訪問看護ステーションの対応してくれる範囲が広がった

実は一番大きい理由だと感じているのが、訪問看護師さん(あるいは訪問のリハビリスタッフ)の力です。
先の記事でも触れたように、訪問看護ステーションのほとんどは主に成人を対象に運営されていて、そこに子どもをお願いしているという構図があり、子どもに不慣れな中でも、子どものために何ができるかと考えてくださっている訪問看護師さんは大勢おられます。
しかし、小児在宅医療の現場では、様々な理由で訪問看護師さんが力を発揮しづらい環境があり、少しでもそれが変わっていけば・・と思っているところです。

詳しく書くと、この話だけで一つの記事ができるくらいの内容になるので、詳細は別の機会(できれば・・)に譲りますが、医師に相談できる形を作り、一緒に子どもにできることを考えていくと、訪問看護師さんが在宅で行ってくれることが広がる場面が数多くあります。
例えば・・。

・ファーストコールを訪問看護ステーションにお願いし、訪問看護師さんの判断で相談や指示をできる、ちょっとした体調変化などについては、電話対応や臨時の訪問看護をお願いすることがあります。判断に迷う場合などにはもちろんいろんな形でバックアップをしますが、それを繰り返しているうちに訪問看護師さんも対応の幅を広げてくださるので、徐々に臨時往診の必要な事態が減っていくことにつながります。

・体調変化の際にまず臨時の訪問看護で状態を看てもらい、その報告を受けて、往診の必要性が必ずしもなさそうな場合には、薬の調整を行ったり、必要な処置(例えば吸引や浣腸など)をしてもらったりするように訪問看護師さんにお願いすることで、往診回数が減らせるとともに、大きく体調を崩すのを未然に防ぐこと(=結果的に夜間の往診を減らすこと)ができます。

こういった連携がうまくいくケースが増えてきたことで、結果として夜間の往診が増えずに推移しているのだと感じます。

何度か書いていますが、キーワードは「ちょっとだけがんばればできる小児在宅医療」です。
長く続けるためには、特定の人に過度な負担がかからないようにすることも大切だと思っています。
無理のない形で、開業小児科医の先生が1〜2人ずつでも対応してくれるようになれば、裾野はとても広がります。
連携がスムーズになるまでに少し時間はかかるかもしれませんが、24時間の対応については恐怖心を抱かれるレベルでなくすることは工夫次第でできますし、必ずしも24時間の往診対応ができなくても、多職種連携の輪の中に入って相談役として機能していただければ、大きなサポートとなり得ます。

できる範囲で少しずつでも、小児在宅医療に参画してくださる小児科開業医の先生が増えれば・・と願っています。

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