在宅医療の現場に入って、この春で早くも4年が過ぎました。
「まだたった4年じゃない」と言われる方も多いと思います。
でも、新生児科医として大きな病院の集中治療現場にいた人間が、思いきり方向転換してからの4年ですので、振り返ると恐ろしいほど濃密です(^_^;)
病院での勤務中と、在宅医療に携わるようになってからとを思い起こせば、いろんな部分で見えていなかったことが見えてきて、考え方も大きく変わりました。
その中でも特に大きく変わったなと思うのは、「外来受診」や「入院」に対する考え方です。
今回はその「外来受診」、特に小児について・・。
病院勤務医時代には、例えばこんなことがありました。
(個人情報に関わるので、事実とは変えている部分があります)
在宅人工呼吸で半年ほどが経過したお子さんのお母さんから、病院の主治医である私に、
「微熱があるけど、それ以外にはあまり変わった様子ではないんです。
このまま様子を見ていていいですかね?」
と電話がかかってきました。
私は直接その子を診ていませんから、電話だけでは何とも判断できません。
微熱以外にも、呼吸音はどうなのか、おなかの調子はどうなのか、心配なことは山ほどありますので、こう答えます。
「診てみないと分からないので、とりあえず連れてきてくださいね。」
お母さんは、「分かりました」と言って電話を切りました。
ところが、待っても待ってもその子が外来に来ません。
家から病院までは、どんなに混んでても自動車で20分くらいなのに・・。
約3時間後、やっと外来に到着。
見るからに機嫌は良さそうで、気管切開カニューレからの吸引物もきれいです。
診察上も、特に大きな問題はなく、これなら血液検査やレントゲンなどの検査もしなくてよさそう・・。
でも、退院して初めての発熱だから心配もある・・。
「心配はなさそうですけど、経過を見たいので、とりあえず、明日もう一回連れてきてくださいね。」
翌日・・。外来で診た時には熱も下がっていて、全く普段通りの状態に。
「これだったらもう大丈夫でしょうね。また何か変わったことがあったら連絡してください。」
・・私としたら、精一杯のことをしようとした結果の行動で、何の悪気もありません。
しかし後日、予約外来の時、お母さんにはこう言われました。
「先生、あの2日とも、連れてくるのが大変だったんです。
連れてくるのに、おばあちゃんに仕事を切り上げてもらわないといけなかったし、病院から帰るのが上の子の幼稚園バスに間に合わなかったから、上の子はバスに乗ったまま幼稚園に戻っちゃって、お父さんに仕事を早退して迎えに行ってもらって・・。
この子をバギーに乗せて、人工呼吸器とか吸引器とかも全部まとめて準備して、家を出られる状態にするのだけでも1時間以上かかるし、帰ったらまた片付けるのにも1時間以上かかるし・・。」
当時の私がそうであったように、多くの病院の先生方は、よかれと思ってこうおっしゃいます。
「心配だったら連れてきてください。」
「様子を見るので、とりあえず連れてきてください。」
また、同じように、よかれと思ってこうおっしゃる病院の先生がおられます。
「何かあったら自分が診るから、在宅医療は必要ないよ。」
もちろん、病院のスタッフの方が「いつでも自分が診るよ」というスタンスでいてくれることが、在宅生活を送る子どもと家族にとっては安心につながっている部分も大いにあります。
しかし、「外来を受診する」というのは、病院のスタッフの方が想像している以上にマンパワーと時間を必要とするため、とても大変な場合が多いのです。
実は、こういう「ちょっとした体調の変化」について、在宅医療の側で対応できる体制を取ることができれば、それだけでもとても大きなサポートになり得ます。
しかし、小児在宅医療の議論はどちらかというと、病院に長期間入院している子どもをどうすれば「安全に」退院させてあげることができるか、にまだ注目が集中している印象です。
もちろん「安全・安心」は大きな命題です。
そのために、病院のスタッフの方が「いつでも自分が診るよ」と思ってくださっているのだとも思います。
一方で、「いつでも自分が診るよ」からもう一歩踏み込んで(もしかすると「もう一歩下がって」かも?)、在宅医療の提供者に対して「いつでも相談に乗るよ」という立ち位置を取ってくだされば、在宅医療側にできることは、実はまだまだたくさんあるんです。
そしてそれは、在宅医療側にとっても、それほど負担感の大きな仕事ばかりではありません。
ですから、私のような小児在宅医療を専門に行っている人間だけではなく、成人領域の在宅医の先生や、開業医の小児科の先生、訪問看護師、様々な立場の人が、少しずつ守備範囲を広げていくことができる可能性をはらんでいると考えています。
小児在宅医療に関する今の私の最大の目標は、関わってくださる医師や看護師を増やすことです。
そのためには、多くの人にとって「ちょっとだけがんばればできる」という形であること、そしてそれが「やりがいのある仕事」であることが必要だと思っています。
次回以降このあたりについて、具体的に考えてみたいと思います(時間がかかったらすみません・・)。
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