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よしなしごと

他施設研修

明日から2日間、大阪にある在宅支援診療所におじゃまして、研修させていただくことになっている。
これは、日本在宅医学会という組織の認定医を取得するために必要な単位として定められているもので、3カ所以上の他施設で研修しないと認定医になれないので、その一環として。

このシステム、個人的にはかなりイケてると思っている。
往診って病院と違って基本的に個人プレイなので、他の医師がどんなことをやってるのかを学ぶ機会がとても少ない。
もちろん自分の診療所の医師の往診には同行させてもらったりすることはあるのだが、病院勤務時代みたいにいろいろな医師の考え方を吸収する機会はなかなか得がたい。

そして、医療は患者さんの自宅で行われるため、基本密室状態。
自分の職場にも外部から研修生が来るが、それにより自分たちのやっている医療をオープンにでき、再確認できるという受け入れ側のメリットがある制度でもある。

もちろんその分、認定医を取ること自体のハードルも結構高めのような印象がある。

それに比べて残念でしょうがないのが、日本周産期新生児学会の新生児科の認定医制度。
自分自身、新生児科医としての誇りを持って在宅医療をやっていきたいと思っているのだが、制度に対する疑問のために受験資格を返上してしまった。

2010.7.14の日記にも書いたが、新生児科医の偉大なる先輩が
「新生児科医はfiremanであり、farmerでなければならない」
という名言を残されている。

これは、NICUという火事場のような急性期医療の現場と、その後の成長のフォローという農場のような仕事と、両方が重要であるという意味だと自分は受け取っている。
そして、自分はそのfarmer的要素の魅力が強くなってきたので、今のような仕事を志すようになったのだと思う。

ところが、僕がどれだけfarmerとしてがんばっても、認定医を更新し続けることはできない。
それは、更新の条件として、「新生児の蘇生経験何例」、「低出生体重児の管理経験何例」というような、NICUで勤務していないとクリアできないfiremanのハードルが何個も科せられているから。

それに引きかえ、farmerのハードルはほとんどない。
せいぜい、低出生体重児の発達フォローを数例したことがある、というレベルで達成できてしまう。
もちろんそれも大事だが、合併症を持って退院した児のフォローアップとか、医療的ケアの必要な児の生活サポートとか、「新生児科医が担わないと今の日本で誰がやるのか?」というような仕事が全く入っていないのだ。

もっと低いレベルで納得がいかないことがある。
田舎の小さなNICUで勤務している新生児科医は、5年のうちに半年間、大きなNICUで勤務することを義務づけられている。
これはまあ、小さい施設ではできないことを経験するという意味では必要かもしれない。
でもそうであるなら、大きい施設で勤務している新生児科医も、小さなNICUの現実を知らないといかんと思うのは自分だけか??
田舎の小さなNICUでも、限られた医療資源で知恵を振り絞って地域の新生児医療を守っている偉大な先生がいたことを、広島時代に身をもって経験した。
そういう先生には、大きなNICU(ある意味守られた環境)でしか勤務経験がない医師にはできないような瞬時の判断であったり、退院後の地域との関わりであったり、学ぶべきところがたくさんあったと思うのである。

結局、新生児科の認定医は「急性期医療を大規模NICUでできればいいよ」という話に成り下がってると思うのは私だけだろうか。
新生児科医が自分たちの地位を確立するために作ったはずの制度が、何だかすごく陳腐なものになってしまっている現状が哀しい。
明日からの他施設研修のような、お互いがお互いから学べるようなシステムになっていけばと願っているし、そうであればfarmerの立場から認定医試験を受けたいなと思う。

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