在宅医療に携わるようになり、多くの訪問看護師さんや在宅医の先生から、
「小児では、処置の方法が病院ごとにバラバラに指導されていて、一般的に『これでよい』という方法に統一されていないため、対応が大変だ」
というご意見を聞くことがあります。
確かに、医療的な必要性により、個別に特別な処置の方法を指導されているケースはあります。
そういう場合には、特別な処置の必要性を、訪問看護師さんや在宅医の先生と病院の間で共有しておかねばならないでしょう。

一方で、医療的な必要性というよりも、病院内で行われている管理方法をそのまま在宅での処置の指導にあてはめていたり、そもそも方法を統一するという認識があまりないために、バラバラの管理法になっている処置も結構あるように思います。

その代表例が、気管内吸引用のチューブの保管方法ではないかと感じています。

私は、6年半前まで病院で勤務していた時には、気管内吸引チューブはミルトン(次亜塩素酸ナトリウム)という消毒液を入れた容器に漬けて保管するように指導していました。
しかし、在宅医療に携わるようになり、この方法はどちらかというと少数派の管理方法であることを知りました。
多くの成人領域の在宅医の先生が、気管内吸引チューブを乾燥させて保管する方法を指導されていますし、小児を多く診療している在宅医の先生も、私の知る方のほとんどが乾燥させて保管する方法を指導されています。
私もそれにならい、開業以来4年間、特に理由がない限りは乾燥させて保管する方法で指導を行っています。

さて、9月11日よりFacebook上で、在宅医および訪問看護師を対象として
【気管切開の吸引チューブの管理法について】
というアンケートを実施しており、13日の13時までに87名の方からご回答をいただきました。
その時点での結果は以下のようになっています。

1)水道水を吸引後、乾燥させて保管  :70名
2)消毒液を吸引後、乾燥させて保管  : 6名 ・・以上、乾燥 76名
3)水道水を吸引後、消毒液に漬けて保管: 9名
4)消毒液を吸引後、消毒液に漬けて保管: 2名 ・・以上、消毒液11名

全体の約87%の方が、1)2)の乾燥させて保管するように指導されているというのが、現実のようです。

1)2)を選択された方の主な理由としては、以下のようなものが挙げられました。
・吸引は身体に何かを入れる処置ではないため、チューブ内の菌量を減らす意味に乏しい。
・気管カニューレが無菌ではないので、その中の処置を行うチューブに消毒の必要がない。
・消毒液に漬ける方法との間で、感染症発症率や保菌状態の変化に有意差がない。
・消毒液に漬ける方法を指導された約半数の家庭で、指示通り保管されていなかったが、特に問題はなかった。
・消毒液の誤飲や、不十分な消毒液の除去状態で吸引することの危険性が大きい。

一方で、3)4)を選択された方の主な理由としては、以下のようなものが挙げられました。
・チューブの内腔の菌量は消毒液に漬けた方が減るので、菌量は減らすべきである。
・AAP(米国小児科学会)ガイドラインに消毒液に漬けるようにと記載があると、病院から言われた。 

なお、私がこれまでに集めることができた論文などによると、消毒液に漬けると吸引チューブ内の菌量が減るという報告は複数見つけられますが、乾燥させるのに比べて感染症を減らす(あるいは乾燥させる方が感染症が多い)という報告は見つかりません。(もしご存じの方がいましたら、お教えいただければ幸いです)
また、私自身はまだ在宅医療の経験は6年半と短いですが、多くの在宅医の先生から、臨床上の経験から乾燥させる方法が感染予防に問題があるとは考えにくいとのご指摘をいただきました。
さらには、何人かの在宅医の先生から、未発表データながら、乾燥させる方法と消毒液に漬ける方法との間で、感染症発症率や保菌状態の変化に有意差がなかったというデータをいただきました。
AAPガイドラインは、何を理由に消毒液に漬けることを推奨しているのか確認できていませんので、現在原文を取り寄せて確認しようとしているところです。

気管内吸引チューブの保管方法に関する調査は、現時点ではこのような結果でした。
これらを踏まえ、当クリニックでは気管内吸引チューブの保管方法について、現時点では以下のように考えています。

・乾燥させて保管する方法は、簡便で、消毒液に漬ける方法に比べて感染予防効果において劣っていないと考えられるため、特に理由がなければこちらを第一選択とする。
・消毒液に漬けて保管する方法に慣れている方については、正しい手順によれば問題はないため、そのまま継続していただく。
・AAPガイドラインの内容を確認後に、再度この方針について検討する。



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