当クリニックでは、多くの医療的ケアを要する子どもさんに訪問診療を行っており、その範囲は堺市だけでなく、周辺の市も含んでいます。

訪問診療の際に相談されることはいっぱいありますが、その中でも頭を悩ませるものの代表格が、保育園の利用や小学校への入学についてのものです。



皆さんご存じのように、医療的ケアを要する子どもは年々増加しています。

しかし、これまでの障害者支援の考え方では「知的障害」と「身体障害」という分類しか存在せず(精神障害もありますがここでは省きます)、医療的ケアを要する子どもの支援を考える上では、どちらの軸で考えても該当しないことが多かったため、さまざまな問題が存在しています。



しかし、平成28年に交付された「障害者総合支援法および児童福祉法の一部を改正する法律」の中に、このような文言が含まれました。



児童福祉法 第五十六条の六第二項

 地方公共団体は、人工呼吸器を装着している障害児その他の日常生活を営むために医療を要する状態にある障害児が、その心身の状況に応じた適切な保健、医療、福祉その他の関連分野の支援を行う機関との連絡調整を行うための体制の整備に関し、必要な措置を講ずるように努めなければならない。



これはとても大きなことでした。

法律の中に初めて、「医療を要する状態にある障害児」という言葉が盛り込まれて、これまでの制度では隙間に落とされたままだった子どもたちに対する支援の必要性がきちんと書かれたのです。

しかも、地方公共団体は「必要な措置を講ずるように努めなければならない」と、かなり強い言い回しです。



さて、話を戻します。

当クリニックが訪問診療をしている医療的ケアを要する子どもには、いわゆる特別支援学校に通学している方が大勢いますし、様々な理由で、特別支援学校よりも、地域の一般の小学校への通学を希望されるこどもと家族もおられます。

私個人の考え方として、特別支援学校というのは障害を持つ子どもへの対応に慣れた学校ですので、特性に合わせた専門的教育を受けることができるというメリットは大きいと思います。しかし、一般の小学校では、きょうだいや近所の子どもたちと一緒に通学でき、地域の1人の子どもとして過ごせるというメリットがあります。

このどちらが子どもにとってより大きなメリットとなるかについては、それぞれ考え方が異なるでしょうが、私は、そのどちらも尊重されれば良いなと考えています。



私は8年ほど前に大阪府北部のある小学校を見学させていただいたことがあり、この時、とても大きな衝撃を受けたのを覚えています。

小学校には、医療的ケアを要する子どもが大勢通っていて、普通にクラスで授業を受けているのです。

口や鼻の吸引や、栄養剤の注入を必要とする子どもたちが、他の友だちと一緒に学校で勉強していて、友だちもその子どものことに目を配り、一緒にできることを自然に考えています。

こういった形の学校がどんどん増えて、子どもの選択肢が広がればいいなと思ったのでした。



しかし、障害のある子ども、医療的ケアを要する子どもが一般の小学校へ通学することについては、市町村をまたぐと対応がかなり異なっています。

当クリニックの訪問診療を行っている子どもだけで考えても、近隣の市ではすでに、車いすの子どもや、胃瘻からの注入、吸引などを日常的に必要とする子どもが、何人も一般の小学校へ通学しています。

ですが、堺市内では、一般の小学校への通学を希望しても、なかなか受け入れが進んでいかない現状があるようです。

堺市でこのようなクリニックを開設した私にとって、堺市が他の市より遅れているという現実は、とても複雑です・・。



また、特別支援学校を希望する子どもと家族にとっても、医療的ケアには多くの問題が山積しています。

例えば、堺市や近隣の特別支援学校では原則として、気管カニューレが抜けてしまった場合には学校の看護師ですら入れてはならず、親に再挿入してもらうか、もしくは救急搬送することになっています。(その近所の一般の小学校では、学校の看護師が再挿入してくれるのですが・・)

このルールのために、いつ起こるかどうかもわからない「カニューレが抜けた時に入れ直す」だけのために、学校にずっと待機しなければならないお母さんが大勢おられます。

看護師さんが気管カニューレの再挿入さえしてくれるのであれば、お母さんは少しでも家の用事を済ませたり、自分の時間を持つことができるのでしょうが・・。



先に書いたように、医療的ケアを要する子どもへの対応については、地方公共団体の義務として法律に記載されていますから、今までのように、制度の隙間の存在のままで放っておくことがあってはいけません。

とは言え、保育・教育の現場の方に、現在の時点でこのような対応をせざるを得ない状況について、責めるばかりになることも避けなければなりません。

ただでさえ日常の業務が大変な保育・教育の現場の方に対して、本来は専門外である医療についての責任を丸投げしてしまい、負担を増大させてしまうような形で無理矢理突き進むことも避けなければならないと思うのです。



この問題を解決していくためには、医療の側からもっと保育・教育の現場に対して出向いていって、不安や困りごとをバックアップする体制を作っていく必要性があるのではないかと、私は考えています。

当クリニックでは開業から5年間、こういった取り組みについてはほとんどできていなかったのが現実です。

これからは、保育・教育との連携を深めて、医療的ケアを要する子どもへの対応へのハードルを下げるために、具体的にどのような活動が必要か考えていきたいと思っています。