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よしなしごと

6月17日「とくダネ!」調剤薬局の話題について

最近何度か患者さんから、
「薬局で薬をもらうと高くなるんですか?」
と質問を受けることがありました。
なぜこんな質問が??と思っていたら、テレビで取り上げられていたんですね。全く知りませんでした。

これを観て、「うーん・・」とうなってしまいました。
山ほど言いたいことがあるのですが、とてもここに書き切れる内容ではないので・・。

とりあえず、言いたいことから書くと、ポイントは以下になります。

1)ほとんどの調剤薬局はマジメな仕事をされていて、疑義照会などの一定の役割を果たしてくれていることは、医師として実感できる。

2)しかし、医薬分業に期待されていた「処方される薬を減らす」効果があまり現れていないのは確かかもしれない。

3)かといって院内調剤に戻していくのは逆効果で、医薬分業は推進されるべき。

4)医薬分業の恩恵を受けるためには、患者が「かかりつけ薬局」を持つことが大切。

5)調剤薬局のコストが高すぎるのではなくて、院内調剤のコストが安すぎるのが現状。院内調剤の方が安いから戻すべきという論調には大いに反対。

以下長文ですのでご容赦ください。

<1)について>

この番組では、
「調剤薬局を使うと値段が高い」=「悪」
という誘導的内容になっていて、偏向な印象を受ける部分があり、ネット上で多くの薬剤師さんが「調剤薬局バッシングだ」と言われているのも無理はないという気がしています。

私のクリニックは訪問診療を主に行っていて、患者さんの自宅で処方箋を発行してお渡しするので、患者さんが自宅近くの薬局に処方箋を持って行かれます。
そのため、私のクリニックにはいわゆる「門前薬局」的な薬局がありません。
発行した処方箋は、数多くの調剤薬局さんに持ち込まれることになり、その結果大勢の薬剤師さんと連絡を取り合うことになります。

番組内で話題になっていた「疑義照会」については、頻繁にクリニックに電話がかかってきます。
時には、他の医療機関から同効能の処方が出ていることを教えてもらい、処方を変更することもあります。
しかし、ほとんどは「チェック」が目的ですから、結果的に処方はそのままの内容になることが多いのは当然です。
番組内でコメンテーターが「疑義照会の実感がない」ようなことを言われていたのは、こういった裏方的な働きで、患者さんから見えにくいところで役割を担ってくれているためです。

<2)について>

しかし番組内で、医薬分業の推進によって本来期待されていた効果が大きく現れているわけではない、と言われていたのには、部分的にはそうかもしれません。
一般的に医薬分業の目的は、以下のような点だったのではないかと私は思っています。

・「たくさん薬を処方する方が医師が儲かる」システムの打破
→結果的に処方される薬が減ることを期待

・薬剤師が薬の内容、投与量、相互作用などについてチェックする
特に複数医療機関から処方を受けている場合に有効
(疑義照会はその一部としての仕事)

・後発医薬品の処方の推進による医療費削減
→2010年より薬局の判断で後発医薬品への変更可能に

・患者さんが薬を受け取る薬局を選ぶことができる
→待ち時間の短縮につながる

上の4つの赤で書いたことには達成されているものが多いのではないかと思います。
しかし、処方される薬の数が目に見えて減ったというわけではないのは確かで、いわゆる「薬漬け」抑制効果が不十分との指摘はその通りかもしれません。

<3)について>

だからといって、「医薬分業が間違っている」というのは短絡的ではないかと私は思います。
この番組内でコメンテーターが言われているような、「医薬分業より院内調剤を充実させていく方がよい」という意見には、私は全く反対の考えを持っており、「医薬分業がより有効に機能する工夫をしていくべきだ」と考えています。

医薬分業が推進され始めた頃に比べ、現在は薬の種類も飛躍的に多くなり、患者さん個々の状態に合わせた処方の工夫ができることが増えてきました。
しかし、医療機関内に薬の在庫を置くには、特に小規模の開業医などでは薬の種類を限定せざるを得ません。
もちろん調剤薬局にも全ての薬を置いてもらうことは不可能ですが、医療機関よりは対応の幅が大きくなります。
さまざまな理由で院内調剤を続けている医療機関もあり、それが一概に間違っているとも思っていませんが、大きな流れとしては医薬分業は今後も推進されていく方がよいと考えています。

そして、今回の番組では、調剤薬局がやり玉に挙げられたような形になってしまいましたが、処方される薬が減らないのは医薬分業が間違っているからではなく、医師側に「薬を減らそう」という意識が希薄であるからだと私は思っています。
(この点については、また機会があればブログに書きたいと思います)

<4)について>

薬を減らすことについては、私は医師の意識の問題が大きいと考えていますので、少し棚上げします。
それ以外の点について医薬分業がもたらす患者さん側のメリットを考え、私は患者さんに「かかりつけ薬局」を持つことをお勧めしています。

知らない方も多いですが、院外処方箋はどこの調剤薬局に持ち込んでもかまいません。
複数の医療機関に受診される患者さんが、全ての薬を同じ調剤薬局(かかりつけ薬局)で受け取るようにすれば、その薬局の薬剤師さんは患者さんの全体像を知った上で、薬の内容や相互作用をチェックすることができます。
もちろんそうしなくても、薬剤師さんは他の薬局で処方された薬も、お薬手帳などで確認してチェックされています。
ですが、かかりつけ薬局で気軽に相談できる薬剤師さんがいれば、チェックは確実になる上、患者さんから医師には聞きにくいような質問をできる場面もあるでしょう。

医薬分業の恩恵を受けるには、いわゆる「門前薬局」で何となく薬をもらうのではなくて、「この薬局なら相談したいな」と思える「かかりつけ薬局」を見つけるのがよいのではないかと思っています。

<5)について>

番組内では何度も、院外処方と院内処方のコストを比べて、院外処方のコストは高すぎるという論調で話を進めていました。
しかし、現状の診療報酬は、院内調剤をがんばっても労力に見合うレベルにはありませんので、もしコメンテーターの言うように院内調剤に戻していくことを本気で考えるのであれば、現在院外処方にかかっているコスト程度は院内処方でも負担いただかないと、多くの医療機関ではとても院内処方に移行はできません。

この大きな理由の一つには、「薬価差益」と呼ばれる「薬の価格 ー 薬の仕入れ値」が、院内処方全盛だった時代に比べてものすごく小さくなっていることがあります。
簡単に言うと、昔は薬1錠、あるいは1袋ごとの売値(あえてこう書きます)と仕入れ値の差が今より大きく、薬を処方すればするほど利益が増える仕組みになっていました。
当時は院内処方全盛で、この利益は医療機関に上がる形だったので、これがいわゆる「薬漬け」の原因の一つだとの批判が巻き起こったわけです。

そこで、仕組みが大きく変わりました。
薬の売値と仕入れ値の差を小さくして利益はほとんどなくする代わりに、調剤薬局で薬剤師さんが薬を出すことへのコストを認めたわけです。
そのため、多くの医療機関が院内処方を続けるメリットがなくなり、院外処方を採用しました。
現在、調剤薬局の経営は主にこのコストによって成り立っています。

こういう変遷があるので、現在の院内処方と院外処方のコストを単純に比較して「調剤薬局は高いから院内処方にすべき」という議論をするのは短絡的すぎます。
調剤薬局で薬を処方するためのコストが高すぎると言うのは、例えるなら飲食店で「原価で料理を出せ」と言うようなものです。

・・以上、医薬分業に関する私見を述べさせていただきました。
この分野の知識について私は十分に持ち合わせているとは言えませんので、もし間違いなどあればご指摘ください。

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