
【開催レポート】ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオ 第3回 在宅での排尿管理とQOL
在宅医療における排泄ケアの第2弾として「おしっこ(排尿)」をテーマに、泌尿器科的症状の解説から管理デバイスの実際までを語り合いました。今回も頸髄損傷の当事者である直野隆一郎氏の実体験を交え、バルーンカテーテルや膀胱瘻といった管理方法の選択、外出を支える工夫など、医療者・患者双方の視点からQOL向上のための具体的な知恵を網羅しています。

1. 下部尿路症状の種類と在宅現場での訴え
在宅医療の現場において、排尿に関する相談は「うんち」に並んで非常に多く、その訴えは多岐にわたります。具体的には、尿が出にくい、勢いが弱い、尿の回数が多い(頻尿)、夜間に何度も起きる、尿が漏れる(失禁)、残尿感がある、排尿時に痛む、血が混じるといった内容です。頻尿については、昼間8回以上、あるいは夜間2回以上を目安としますが、単なる回数だけでなく、それによって本人のQOL(生活の質)に問題が生じているかどうかが治療を考える上での重要な指標となります。尿失禁についても、急な尿意に間に合わない「切迫性尿失禁」、膀胱から尿が溢れ出す「溢流性尿失禁」、咳などで腹圧がかかる際に漏れる「腹圧性尿失禁」、脊髄損傷などで尿意がないまま膀胱が収縮する「反射性尿失禁」といった複数のパターンがあり、原因に応じた適切な対応が求められます。
2. 夜間頻尿の背後に隠れる要因と生活習慣の見直し
特に高齢者の悩みとして多い「夜間頻尿」は、単なる加齢現象だけでなく、内科的な要因が複雑に絡み合っている場合があります。多尿の原因としては、水分の摂り過ぎだけでなく、糖尿病や尿崩症、さらには高血圧や睡眠時無呼吸症候群といった疾患が夜間多尿を引き起こしているケースも珍しくありません。例えば、睡眠時無呼吸症候群に対してCPAP(マスク型呼吸器)治療を行うことで、夜間の排尿回数が劇的に改善することもあります。また、寝る前のアルコールやカフェインの摂取といった嗜好品の影響も無視できません。症状があるからといってすぐに薬を処方するのではなく、まずは排尿記録をつけ、水分摂取のタイミングや基礎疾患の影響を精査し、生活習慣の改善で対応できないかを検討することが、在宅医療における大切なアプローチです。
3. 排尿管理デバイスの選択肢:自己導尿・バルーン・膀胱瘻
自力排尿が困難な場合の管理方法には、主にバルーンカテーテル(留置)、間欠自己導尿、膀胱瘻の3つがあります。バルーンカテーテルは介護負担が少なく一般的ですが、常に管が入っていることによる生活の制限や、尿路感染症のリスク、男性では尿道の損傷といったデメリットも存在します。対して自己導尿は膀胱機能を維持しやすく、感染リスクも比較的低いとされますが、1日5〜6回の操作が必要で、身体機能によっては自力での実施が困難です。直野氏は入院中、これら全ての選択肢を提示された上で、脊髄損傷により指の機能に制限があることや、社会生活での利便性を考慮し、「膀胱瘻(お腹に穴を開けて直接膀胱に管を通す方法)」を選択しました。医師が一方的に決めるのではなく、患者自身が「どのような生活を送りたいか」という意向に基づいて能動的に選択肢を選ぶことが、その後のQOLを支える基盤となります。
4. 膀胱洗浄と結晶対策:ガイドラインと現場の折衷案
長期にわたってカテーテルを留置していると、尿中の浮遊物や結晶(尿砂)による閉塞が問題になります。膀胱洗浄の是非については専門医の間でもコンセンサスが得られておらず、最新のガイドラインでは「感染予防目的の定期的な洗浄」は推奨されていません。しかし、血尿や尿砂によって頻繁に閉塞を繰り返す場合には、解除目的での洗浄が許容されます。根本的な対策としては、尿がアルカリ化すると結晶ができやすいため、飲水量を増やして尿を薄め、酸性に保つことが重要です。直野氏の場合、体質的に結晶ができやすいため、医師の指導のもと1日2.5〜3リットルの水分を摂取し、自衛手段として1日1回の洗浄を継続しています。これは、医学的な標準治療と個々の患者の体質や生活実態をすり合わせた、現場ならではの判断の一例です。
5. 外出を支える知恵:蓄尿バッグの工夫とコスト管理
在宅での排泄管理において、外出時のプライバシー確保と介護負担の軽減は切実な課題です。直野氏は、外出時にはズボンの下に隠せる「レッグパック(足に装着する蓄尿バッグ)」を使用し、その固定には100円均一のマジックテープを活用しています。また、カテーテルの接続部分による擦れや、管の屈曲(折れ曲がり)による自律神経過反射(頭痛や血圧上昇など)を防ぐため、管にガーゼを巻いて保護するといった細やかな工夫を重ねています。さらに、排泄トラブル時の対応として、高価なパンツを洗って再利用するよりも、安価な製品を使い捨てにする方が介護者の疲弊を防げるという実利的な視点も提示されました。保険診療でカバーできる範囲には限りがあるため、市販の目隠しバッグや通販を活用し、いかに安価で持続可能な管理体制を作るかという点も、在宅生活を継続する上での知恵となります。
6. 心理的ケアとQ&A:事故が起きた時の声掛け
排泄の失敗は、患者にとって自尊心を深く傷つける出来事であり、家族や医療者の関わり方が重要です。直野氏は、出勤などの失敗をした際に「特別視せず、ライトに接してもらえること」が最も救いになると語ります。例えば、「おしっこが出て良かったね」といった肯定的な捉え方や、日常の一コマとしてさらりと処理する看護師の姿勢が、本人の心理的負担を軽減します。また、質疑応答では、便秘が原因で尿バッグが真紫色になる「紫色尿バッグ症候群」への質問もあり、おしっこだけの問題ではなく、腸内環境や排便管理を整えることが排尿の安定にも繋がることが解説されました。高齢者の脱水予防についても、味のついた飲み物やお茶のバリエーションを増やすといった、本人が楽しめる工夫が推奨されます。
7. まとめ:在宅排尿ケアのポイント
・症状の背後にある生活習慣や基礎疾患を把握する
排尿トラブルには、水分摂取のタイミングや睡眠時無呼吸症候群といった、泌尿器科以外の要因が隠れていることが多いため、多角的な評価が必要です。
・QOLを最優先に管理デバイスを選択する
バルーン、自己導尿、膀胱瘻にはそれぞれ利害があり、身体機能だけでなく「どのような社会生活を営みたいか」を軸に患者と共に選択することが重要です。
・現場の知恵と安価なアイテムで継続性を高める
ガーゼによる皮膚保護や100均アイテムの活用、使い捨ての割り切りなど、介護負担とコストを抑える工夫が在宅生活を支える鍵となります。
・排泄の失敗にはライトかつ肯定的に接する
心理的なケアとして、失敗を否定せず、日常の当たり前のこととして接する姿勢が、本人の自尊心と外出へのモチベーションを守ります。
ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオについて
「ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオ」は、かがやきクリニック院長の南條浩輝と、頚髄損傷患者の直野隆一郎氏が、他では語れない在宅医療のディープなリアルを、お互いの立場から深く掘り下げていこうという、インターネットラジオ番組です。
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