
【開催レポート】ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオ 第2回 「うんち」のリアルと工夫を語り尽くす
2024年2月にお送りした第2回のテーマは「うんち(排泄)」。
かがやきクリニック院長の私、南條からは、便の性状を評価するツール「ブリストル便性状スケール」や、排泄にはとても多くの人間の機能が複雑に絡み合っていること、などを説明。
直野氏からは、新聞紙を用いた「土手」作りや姿勢の工夫、食事管理などの具体的なノウハウに加えて、患者側の切実な「排泄とメンタル」の関係や、介護者の関わり方へのお願いなど、幅広い話題に迫ります。

1. 排泄という行為の複雑さと共通言語の重要性
排泄の状況を適切に評価して共有するためには、まず「便の状態」を共通の言葉で語れないと始まりませんね。
「ブリストル便性状スケール」を用いることで、この問題は解決できます。1(コロコロ便)から7(水様便)までの7段階で状態を共有すると、患者さんが言われる「普通の便」や「下痢」という主観の入った言葉ではなく、客観的な情報共有が可能です(患者さんごとに「普通の便」「下痢」などの表現は結構主観的で、医療従事者がイメージするものと乖離があることも珍しくないんですよね)。
また、排泄は単に便を出すだけではなく、便意の感知、トイレへの移動、衣服の着脱、後始末といった多くの過程(ADL)が組み合わさった非常に複雑な行動だ、ということはしっかり押さえておくといいですね。
在宅医療では、この過程のどこに支障があって、排便が難しくなっているのかを見極めることが、生活のしやすさに直接的につながります。
2. 便秘薬の選択と在宅ならではの調整術
便秘薬には、酸化マグネシウムのように便を軟らかくするものや、ラキソベロンのように腸を刺激するものなど、様々な種類があります。最近ではモビコールやリンゼスといった新しい薬も登場し、高い効果を発揮していますが、在宅現場では「効きすぎ」によるコントロールの難しさが課題になることもあります。直野氏の場合、前日の夜にラキソベロンを内服し、当日の朝に座薬や浣腸を併用することで、決まった時間に排便を済ませるルーチンを確立しています。このように、単に便を出すだけでなく、介護者の負担を考慮して「狙ったタイミング」で出すことが在宅では重要です。また、機械的に「寝る前」と指示するのではなく、患者さんの生活リズムや介護者の深夜帯の負担を考慮し、朝に内服して夕方に出すといった柔軟な調整も検討すべきです。
3. 実践的ハック:新聞紙で作る「土手」と排便姿勢
病院や教科書の主導とは異なる、在宅ならではの工夫が「土手」作りです。直野氏が実践しているのは、防水シートやビニールの下に、ガムテープで固めた新聞紙の堤防(土手)を設置し、お尻の下に傾斜をつける方法です。これにより、浣腸液や軟らかい便が周囲に広がらず、1箇所のビニール袋に集まるよう工夫されています。この方法はコストを抑えるだけでなく、後始末の簡略化にも大きく貢献しています。また、排便時の姿勢も極めて重要です。解剖学的に、膝を曲げ込んでお尻を突き出すような「しゃがむ姿勢」が最も便が出やすいのですが、ベッド上での処置でもこの姿勢を意識することがスムーズな排便の鍵となります。洋式トイレを使用する場合でも、足台を置いて膝の位置を高くするだけで、排便のしやすさが劇的に変わることがあります。
4. 排便コントロールのための食生活とライフスタイル
安定した排便には、日々の生活習慣が欠かせません。直野氏は1日に2.5〜3Lの水分摂取を心がけていますが、特に冬場は意識しないと摂取量が減り、便が硬くなる原因になります。食事面では、食物繊維の摂取に加え、特定の食べ物が排便に与える影響に注意が必要です。例えば、サツマイモやゴボウ、ニンニクなどはガスを発生させやすく、自力でおならを出せない当事者にとっては、そのガスが座薬のような刺激となって予期せぬ便失禁を誘発するリスクがあります。また、酸化した油や辛い食べ物も便が緩くなる要因となります。旅行など外出の際には、あらかじめ「出さない前提」でスケジュールを組み、食事のタイミングや内容を調整するといった、経験に基づいた自己管理術が語られました。
5. メンタルケア:自尊心と周囲の声かけ
排便管理において最も見落とされがちで、かつ重要なのがメンタル面への配慮です。直野氏が語った「自分のケツを自分で拭けない」という言葉には、深い葛藤が込められています。排泄の失敗は、本人の自尊心を深く傷つけ、精神的な落ち込みを招きます。もし介護者が溜息をついたり、ネガティブな反応を示したりすれば、本人は「もう漏らしてはいけない」と過剰に水分摂取を控え、それが便秘を悪化させるという悪循環に陥ります。医療従事者や家族は、たとえ失敗があっても「出たことは良いことだ」と明るく振る舞い、ポジティブなフィードバックを行うことが大切です。リラックスできる環境こそが、副交感神経を優位にし、スムーズな排便を促す最大の特効薬となります。
6. 質疑応答から見る在宅排泄管理の指針
Q&Aセッションでは、多くの視聴者から切実な質問が寄せられました。自己調節の難しさについては、最初から完璧を目指すのではなく、1年程度のスパンで季節や食事による変化を観察しながら、自分なりの「落とし所」を見つける寛容さが必要です。また、脊髄損傷者向けの排便管理マニュアルには、血圧の変動や自律神経反射への注意点など、高齢者のケアにも応用できる知見が凝縮されています。人工肛門(ストーマ)の患者さんの場合は、皮膚への影響や処理の簡便さを考慮し、あえて少し固めにコントロールする場合があるなど、個別の状況に応じた配慮が求められます。エビデンスも重要ですが、何より「本人が困っていないか」「生活の質が保たれているか」を基準に、多職種で連携してサポートしていく姿勢が求められます。
7. まとめ:排泄管理は「出す」ことと「尊厳」を支えること
排泄ケアの本質は、単に便を出すという医療的な処置に留まらず、患者さんの日々の生活と自尊心を支えることにあります。ブリストルスケールなどの共通言語を用いた的確な評価、生活リズムに合わせた薬の調整、そして「土手」のような現場の知恵を組み合わせることが重要です。何より、失敗を笑い飛ばせるような明るい関係性と、本人がリラックスできる環境づくりが、最高の排便コントロールに繋がります。次回のテーマは「おしっこ(排泄その2)」です。うんちに続き、こちらも奥深い世界を皆さんと共に探求していければと思います。
ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオについて
「ちょっとだけがんばればできる在宅医療ラジオ」は、かがやきクリニック院長の南條浩輝と、頚髄損傷患者の直野隆一郎氏が、他では語れない在宅医療のディープなリアルを、お互いの立場から深く掘り下げていこうという、インターネットラジオ番組です。
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