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よしなしごと

「日本小児科学会倫理委員会公開フォーラム」に参加して

今日、「第8回日本小児科学会倫理委員会公開フォーラム」に参加してきた。
先日のブログに書いた通り、今回のフォーラムは「重篤な疾患をもつ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」についての素案が提示され、それについての議論がなされる場となった。
まずは、今回のフォーラムの内容を、覚えている範囲で簡単に記録する。
(スライド発表を書き留めたものを基にしているので、ニュアンスの違いや明らかな間違いがあるかもしれません。コメントなどいただければ訂正いたします。)
近日中に、このフォーラムに参加して、私が感じたことを改めて書く予定です。

日時:2011年2月26日(土) 13:30~17:00
会場:早稲田大学総合学術情報センター国際会議場井深大記念ホール
http://www.jpeds.or.jp/saisin/saisin_110119.pdf

<第一部>

○「重篤な疾患をもつ子どもの医療をめぐる話し合いのガイドライン」:提案までの経過
演者:加部一彦先生

まず、このガイドラインのワーキンググループ委員長の加部先生から、どのような経緯で議論がなされてきたのか説明があった。

その中で、このガイドラインの目指すところとして、以下のことが確認されたというお話だった。
・終末期を明確に定義し、機械的に当てはめれば答えが導き出されるような物は作らない。
・「決定のプロセス」を重視したガイドラインを作る。
・ガイドラインには、当事者の納得の範囲、医療従事者のケア、「関係者の納得」と「独断」の区分、医療者のアドボカシーの具体化、を盛り込むことを検討する。

そしてこのガイドラインの目指すところとして、
・話し合いのプロセスの具体化・・・チェックリストの作成、など
・共同意志決定の提案・・・・・・・記録を残して関係者全員で署名する、など
・ジレンマに陥った場合の対応・・・倫理コンサルテーションの提案、など
がある、とのお話だった。

○子どもの死と向き合う ー救急の立場からー
演者:鍛冶有登先生

救急医として小児に数多く関わってこられた鍛冶先生から、実際に対応に苦慮された乳児の虐待疑い症例の呈示があった。
その中で、子どものケア、親のケア、スタッフのケアそれぞれにおいて問題に直面したというお話であった。

また、ガイドラインとは通常、エビデンスに基づいて治療法の標準化の指標となるものを提示することが多いのだが、今回のガイドラインはそれらとは異なることの指摘があった。
また、
・ガイドラインにより患者の病状を好転させるものではない
・患者の予後へ影響を及ぼすことはない
・使用される頻度が少ない
という点で、他のガイドラインとはやや性格の違うものであるが、この存在により、子ども、親、スタッフのケアを行う上でのよりどころになるというお話があった。

○小児終末期医療と法
演者:辰井聡子先生

法学博士の辰井先生から、刑事訴追などを含めた法的な立場とガイドラインの関係についてのお話があった。
平成19年にすでに発行されている2つのガイドラインの紹介があった。
・終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/05/s0521-11.html
・救急医療における終末期医療に関する提言
http://www.jaam.jp/html/info/info-20071116.pdf
(この2つは今回の議論の前提として必須の内容で、ぜひお読みいただきたいと思う)

終末期医療に関する刑事訴追が起こる背景について、以下のようなお話があった。
・「治療中止などの基準がはっきりしていないから」という意見が多いが、そうではない。
・背景には、当事者と医療者の不信感、ひいては社会と医療界の不信感がある。
・社会の不信感をもとに、検察が「事件にできるぞ」と判断されると訴追される結果となる。

これらをふまえて、解決策として、
・社会と医療界の間での信頼感の醸成が必要不可欠。
・一方、マニュアルを作ってそれを丸呑みにするという行動は、逆に社会に不信感を与える。
・真摯に取り組むためのガイドライン作成には、それが社会に伝わることで、巡りめぐって訴追を避けるという結果につながる。
とのことであった。

○子どものいのちを守り、家族を支えるために 演者:野辺明子先生

先天性四肢障害をもつ子どもの親でもある野辺先生から、親の立場としてこのガイドラインについてどのように感じているかというお話があった。

終末期医療が「いのちを見限る」のではなく、「がんばっているいのちへの敬意」を中心に据えた医療であるべきだと指摘され、そのために、子どものいのちを守り家族をささえるための原則と方向性を示したガイドラインであることへの期待を寄せられた。
また、患者や家族の感情を聴きとることがもっと病院側に求められるべきであるというお話があり、そのために傾聴ボランティアなどのサポーターを病院に配置したり、あるいは医療職がそういうトレーニングを受けるべきであるというお話もあった。

<第二部>

○小児の看取りに関する研究班の質問状調査報告
演者:西畠信先生

「小児の看取りに関する研究」研究班で実施された、全国の救急施設、小児科専門医研修施設へのアンケート結果についてのお話があった。

・延命治療の差し控えをした経験がある施設・・・34%
・延命治療の中止をした経験がある施設・・・・・7%

延命治療の「差し控え」と「中止」の現状についての見解は、
・法的責任に差がある・・・42%
・法的責任に差がない・・・15%
・わからない・・・・・・・40%

などの結果について報告された。
また、総合討論の際には、法学者の辰井先生より、一般的には「差し控え」と「中止」に差がないとするのが法関係者の見解であることが補足された。

○PICUにおける終末期医療 ー家族の意志決定プロセスを支援するためのチーム医療と看護の役割ー
演者:清水称喜先生

小児救急看護認定看護師としてPICUで勤務されている清水看護師より、終末期にある児と家族に対しての実際の経験と、そこから考え出されてきたチームアプローチの実際について発表された。
以前は、家族が危機的状況に置かれていることに配慮するあまり、早期の意志決定に躊躇する場面が多かったが、現在は、医療チームによる適切な支援があれば、危機のサポートと治療選択の意志決定は両立可能であると考えており、場合によっては意志決定は家族の支援上必要でさえありうる、ということをお話しされた。
また、話の中で、「受容」という言葉を「前向き、建設的方向への気持ちの切り替え」と誤解し、そちらへ誘導しようとしていたが、本来はそうでなく、「喪失体験のつらさを受け入れていくこと」が本質で、支援とはそれに向き合って、寄り添っていくことである、と言われたのが印象に残っている。

○小児の看取りの医療の提言に向けて
演者:阪井裕一先生

申し訳ありませんが、このお話の途中で電話があり、ほとんど聴くことができませんでした。

<第三部>

総合討論。
まずフロアから質問用紙が回収され、その内容について回答。
その後フロアからの口頭質問に回答、という形で進んだ。

○ガイドラインとしての正当性の担保をどうするのか。
→現在のガイドラインワーキンググループには、看護師が入っていないなどの問題がすでにあることを認識している。
ガイドラインを日本小児科学会として発行するというところに、一定の担保を期待する。

○利益相反はないのか。
→検討されていなかったので、今後の課題とする。

○パブリックコメントはなぜ学会会員にしかできなくするのか。
→パブコメの前に、日本小児科学会HPから一般の方にも広く意見を求める連絡先を掲載する。

○このガイドラインが発効されると、救急現場は楽になるのか。
→自分たちの診療を振り返るツールとして使うことができるため、これはよいと感じている。

○親が子どもの代弁者となり得ない場合は、治療の差し控えや中止をどうするのか。
→差し控えや中止はしないことになるだろう。

○不信感が訴追の原因と言われると、現場はつらい。あまりに非日常的な現場では、それまでの良好な関係ですら不信感に変わってしまうことがある。
→個々の話ではそうかもしれないが、社会が「医療界も全力で取り組んでいるのだ」と感じるためのベースは必要。そのためにガイドライン作成には意味がある。

○やはり法律での保護が必要ではないか。
→法律は常識の集合体のようなものなので、社会的コンセンサスが得られていないものについての法律を作ることは現実的ではない。むしろこういう取り組みで社会的コンセンサスを得ていくプロセスが重要。

○障害のある児を生むと、第二子、第三子を諦めなければならない事が多い。
→SOSを発しながら、社会の力を借りながら、家族だけで育てるのではなく社会が育てるのだという発想が必要。社会資源の充実は必要。

○チェックリストやガイドラインの内容については、患者、遺族、産科医などの他の立場の医療職などに広く意見を求めておくべきではないか。内容が医師の目線に偏っている印象を受ける。
→検討する。

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