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よしなしごと

「顔すら知らない連携」・・

先の記事では、「外来受診」の負担が想像以上に大きいことについて書きました。

「とりあえず連れてきてください」・・

これを読んでくださった病院のスタッフの中には、
「外来受診が大変だから在宅医療を、って言われても、頼む相手がいないよ・・」
と思われている方も多いかもしれません。

現実的な問題として、小児在宅医療には、訪問看護、訪問診療を行う医師だけを見ても、かなりの地域差が存在します。
先日、セミナーの講師をさせていただいた際には、ある地方都市から来られた病院の看護師さんから、その都市では小児を受け入れてくれる訪問看護ステーションが全く見つからないというお話も伺いました。

どうして地域差がとても大きいままなのでしょうか。
また、裾野がなかなか広がっていかないのはどうしてなのでしょうか。

いろいろな理由が考えられますが、まず頭に置いておかねばならない大前提があります。
それは、在宅医療とはもともと成人の患者さんを念頭に作られている制度であり、大多数の機関は成人を対象として運営されています。
そこに小児を診て(看て)もらうように頼もうとしている、という構造があるわけです。
(最近は小児を中心に在宅医療を行う機関も増えてきましたが、まだまだ少数です)

「何を当たり前のことを・・」と言われそうですが、私が病院勤務医だった頃を思い返すと・・。

6〜7年ほど前はちょうど、病院で医療依存度の高い子どもの退院調整を行う時、在宅医療の調整をしようという意識ができてきた頃でした。
当時の私は、まず訪問看護ステーションを探してもらうようにしていました。
今ほど小児に対応してくれるステーションが多くはありませんでしたが、運良く受け入れてくれるステーションが見つかったら、「訪問看護指示書」という書類を作成します。

さあ、これで訪問看護は確保できた。
めでたしめでたし・・。
とはいかないことが何度もありました。

せっかく頼み込んで受け入れをお願いした訪問看護ステーションなのに、退院後すぐにお母さんが断って、訪問看護が中止になってしまうことが続いたのです。

断ったお母さんにその理由を聞くと、だいたい同じような答えが返ってきました。
「来てもらっても、何を頼んでいいか分からない」
「お風呂を手伝ってくれるって言われたけど、お父さんと入れるから別に手伝ってもらわなくても大丈夫」
つまり、お母さんからすると、訪問看護師さんに来てもらうことにメリットを感じられていないということです。

なぜこんなことになってしまうのか・・。
当時の私には全く理由が分かりませんでした。
しかし、実際に在宅医療の現場に入ってみると、その理由は一目瞭然でした。
私が、訪問看護師さんと病院間でお互いのことを全く知らない中で、書類のやりとりだけで物事を進めようとしていたのが一番の問題だったのです。

私の側からすると、そもそも訪問看護ってどういうことをしているのか、イメージすら具体的にありません。
「とりあえず、お風呂の手伝いでもしてもらったら助かるんじゃないかな」
くらいの依頼のこともありました。
それ以外にも、実は訪問看護ではたくさんのことを頼める可能性があるのですが、何を頼んでいいのか分かっていなかったので、指示のしようがなかったのです。
そして、指示書を書いたが最後、私から訪問看護師さんに連絡を取ることはありません。

一方、訪問看護師さんの側からすると、指示書が一枚ポンと渡され、
「後はよろしくね〜」
と、言われて、放置されてしまうわけです。
しかも、ただでさえ不慣れな小児を受け入れたばかり。
しかもしかも、その指示書を書いた私とはもともと面識もありませんから、何か不安を感じたとしても、簡単に電話をして聞くというわけにもいきません。
これでは、訪問看護師さんがせっかく「この子のために何かできることはないか・・」と思ってくれたとしても、誰にも相談できませんから、「お風呂を手伝う」という与えられたミッション以外に、何をしてあげられるのか分からなくなってしまっていたのです。

何を頼んだらいいのか分かっていない病院の小児科医。

何をしてあげたらいいのか分からないままの訪問看護師。

この状態で有効な連携なんてできるはずがなかったのは、考えてみれば当たり前ですが、それに気がついたのは病院を離れてからだったという・・。

最初に書いたように、小児在宅医療では、成人を対象としている在宅医療の機関(訪問看護ステーションなど)に小児を頼もうとしている、という構図があります。
もともと接点の薄かった両者で子どもと家族のサポートをしていこうというわけですから、これは綿密な準備と相談が必要ですよね。
でないと、引き受けてくれたとしても上のような有様ですし、引き受けること自体を躊躇されるのもおかしくありません。
実際にやり始めると、やりがいや楽しさのたくさんある小児在宅医療ですから、入り口のところでつまずいて、入ってこられないままになってしまわないような工夫ができれば・・と思うところです。

ところで、大阪ではここ数年で、小児を受け入れてくれる訪問看護ステーションがかなり増えてきました。
これもいろんな理由があると思いますが、一つには、病院の小児科医と訪問看護師、保健師、在宅医、小児科開業医などの地域側のスタッフが、一緒になって話し合う機会がたくさんできたことも影響していると思います。
しかも、病院側から訪問看護側へのレクチャー的な会はもちろん、病院の小児科医が地域に出て行って、訪問看護師や在宅医などの話を聞いてくださる機会が増えたことで、議論が一方通行ではなくなり、地域側の意見を病院の方に聞いてもらえるようになったことも大きいと感じています。

最近ちまたでは、「顔の見える連携(関係)」という言葉がよく使われますが、今までの小児在宅医療はいわば、「顔すら知らない連携」だったわけです。
地域での担い手がいなくて困っている・・という病院のスタッフの方には、いきなり個別の患者さんの依頼をする前に、まず地域の方とのフラットな話し合いの場を持つところから始め、少しずつ「顔の見える連携」を作っていくようにされてはどうか・・と思っています。

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