私はもともと小児科医で、その中でも専門はちょっと特殊な新生児科です。そんな私が在宅医療に飛び込んだ理由はいくつかあります。

まず、私のバックグラウンドは大きく影響していると思います。

私が産まれた時、父方祖母、母方祖父、母方祖母、母方曾祖母がまだ元気でした。この4人のおじいちゃんおばあちゃんたちは、私が高校生になって以降亡くなりました。そして、現代においておそらく珍しいと思うのですが、4人とも、みんな自宅で最期を迎えたのです。

亡くなり方はみんなそれぞれでした。でも、最期まで住み慣れた自宅で過ごせたというのは、みんな共通して幸せだったことのように思えました。

こういった経験は、医師として働く中でも、考え方の基礎として大きな影響を受けていると思うのです。

そして、仕事の中で感じたこともいろいろあります。

最近メディアで取り上げられることが多くなり、ご存じの方も多いと思いますが、新生児科医は「新生児集中治療室(NICU)」というところをホームグラウンドに、未熟児で産まれた赤ちゃんや、仮死で産まれた赤ちゃん、先天的な病気を持って産まれた赤ちゃんなどの診療を行います。

例えば、1000g未満の未熟児(超低出生体重児といいます)で産まれた赤ちゃんの診療は、出生から状態がある程度落ち着く数日間、分きざみで動く集中治療の場です。しばらくして状態が安定してからも、24時間スタッフが注意深く状態をみる必要があります。こういった集中治療の管理技術は年々向上しており、新生児科医はこぞってその技術や知識を得ようと研鑽を積んでいます。

一方で、NICUでは、長く生きることができない赤ちゃんとも出会います。そういった赤ちゃんにはできるだけご家族との時間を過ごしてもらえるよう、それぞれ病院ごとに様々な工夫をしています。しかしNICUという環境の中では制約が多く、家庭的な雰囲気で過ごしてもらうことは難しいところです。

大人だって、最期は住み慣れた自宅で過ごしたい、と考える方が多いのに、赤ちゃんや子どもこそ、限られた時間をできるだけ家庭的な雰囲気で過ごしてもらいたい、できればおうちでの時間を過ごさせてあげたい。そのためには、おうちでの生活を見守る医療スタッフがいればよいのではないか、と考えるようになりました。

NICU退院後の赤ちゃんの外来フォローアップも、新生児科医の重要な仕事の一つです。しかし、しっかりした研修の機会がほとんどないのが現実です。

未熟児で産まれ、ややゆっくりした発達の赤ちゃんには、節目節目で成長発達を注意深くチェックし、生活上の注意をお伝えしたり、気になるところがあれば早めに対応したりすることで、成長発達を促してあげられる可能性があります。これはある程度経験を積んだ新生児科医であれば、それなりにできるようになることだと思います。

問題は、重度の仮死であったり、先天的な病気を持って産まれた赤ちゃんのフォローアップです。特に近年は、鼻からのチューブや胃瘻からの経管栄養、気管切開、人工呼吸などをしながら退院後の生活を送る子どもたちが増えてきました。ご家族は大きな不安を持ちながらも子どもは退院し、おうちでの生活を送ることになります。

それぞれの医療的問題には、もちろん外来で続けて治療や処置を行うことになります。例えば、けいれんのある子どもには抗けいれん薬で治療を行いますし、気管切開している子どもには定期的にカニューレの交換を行います。一方で、一般生活上の困ること、例えば、緊張が強くなったら口の中に分泌物がたまって吸引が数分おきに必要だとか、ミルクの注入に2時間以上かかるために1日の半分以上を注入に費やさなければならないとか、こういったご家族の訴えを外来でよく伺いました。しかし、これらはいわゆる「病気」ではないため明確な治療法がなく、またおうちでの様子を見ていない医師にはどれくらい大きな問題なのかという想像がつきにくいため、結局は「まあ様子を見ましょう」というような対応になってしまいがちです。

新生児科医として働き始めて5~6年経ったころ、私自身このような対応をしていること、そして、例え病名が付かない状態であっても、それが生活の質を著しく下げるものであれば一緒に対策を考える必要性に気がつきました。しかし、病院での勤務しか経験のない私には、具体的にイメージがなかなかわきません。そのため、実際に生活の場をみさせていただいて勉強し、ニーズは何なのかを把握することの必要性を感じました。

2009年、私は「母と子のすこやか基金」から研究助成をいただくことになり、小児の在宅療養支援に先進的に取り組んでいる4つの施設の見学に伺うことができました(見学記を含む研究報告書はこちら)。見学の中で、実際に自宅で過ごしておられる子どもたちとご家族の様子を見させていただき、またお話を聴き、皆さんが必要とされているサポートが病院の考えているものとは大きく異なることに気づき、衝撃を受けました。それと同時に、おうちでの生活のサポートこそが私がやっていきたい仕事だと思うようになり、在宅医療の現場に飛び込む決心を固めるに至りました。